2017年10月18日水曜日

美の極致 Derek Bailey/BALLADS & STANDARDS (2)

・Derek Bailey/BALLADS [Tzadik] rec.2002, pub.2002


Design : Hueng-Hueng Chin

まずはジャケットから行きましょう。

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ジャケ写は、Kim Novak。映画ファンならすぐわかるそうですが、私は知りませんでした。こちらのサイト↓のコメント欄で知りました。

・音の本箱 > Ballads/Derek Bailey (2015/6/29(月)午前4:49)
https://blogs.yahoo.co.jp/kuwazuimodoki/35054439.html

これは、映画 Richard Quine(dir)(1958)BELL, BOOK AND CANDLE(媚薬)のワン・シーン。主演はJames StewartとKim Novak。

参考:
・koukinobaaba > Audio-Visual Trivia > キム・ノヴァク 媚薬 Bell, Book and Candle (1958)(投稿日: October 12, 2005)
http://www.audio-visual-trivia.com/blog/2005/10/kim_novak_in_bell_book_and_can.html

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Novak演じる魔女Gillianが、Stewart演じるSheppardにシャム猫を使って魔法をかけるシーンです。

そのシーンは、

・YouTube > Bell Book and Candle spell scene(uploaded by859716 on 2011/01/21)
https://www.youtube.com/watch?v=9TesRoMisEw

で見ることができます。そのキャプチャー画像がこちら↓

https://i.ytimg.com/vi/ilQpWjyaU7w/maxresdefault.jpg

BALLADSジャケ写は、これの数フレーム後でしょうか。いずれにしても、映画マニアJohn ZornのLabelらしいジャケです。

ただし、クレジットが皆無なのはいただけない。

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で、ようやく内容。

2002/01~03, London
Derek Bailey (g-solo)

01. Laura
02. What's New
03. When Your Lover Has Gone
04. Stella by Starlight
05. My Melancholy Baby
06. My Buddy
07. Gone with the Wind
08. Rockin' Chair
09. Body and Soul
10. Gone with the Wind
11. Rockin' Chair
12. You Go to My Head
13. Georgia on My Mind
14. Please Don't Talk about Me When I'm Gone

これはfree improvisation界の巨匠Derek Baileyが晩年に残したsoloでのballad集。これまでmelodyもrhythmもharmonyもないfree improvisation一本槍でやって来たBaileyを知るものとしては、驚天動地の事件。

Baileyはこの3年後に亡くなるわけですが、自分の音楽歴、特に子供時代~青年期に自分を形成してくれた音楽たちへ、返礼しておきたい、という気持ちだったのだろうか。

もちろんJohn Zornをはじめ、周囲の薦めがあったようだが、その辺の経緯は最後に見ていこう。

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Ballad集といっても、曲のmelody、code進行が出てくるのはごく一部で、半分はfree improvisation。しかし、その中から突如曲のmelodyが浮かび上がる瞬間は、この上なく美しい。

Baileyが弾くmelodyが美しいのは誰でも気づくが、それはfree improvisation時のBaileyの音も美しい、からに他ならないことに気づかされる。

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Derek Baileyは1960年代なかばまでは、達者なjazz guitaristとして活動していたらしいが、ある日「同じことの繰り返しはつまらない」と気づき、「melodyを弾かない」「手癖で弾かない」「codeを弾かない」「定常rhythmを刻まない」といったfree improvisationの世界に入って行きました。

つまり「引き算」でできた音楽で、常にストイックそのもの。まるで、骨だけでできているような音楽です。必然的にsoloが多くなります。

他のミュージシャンとの共演もありますが、melodyもharmonyもrhythmも共有しないので、Baileyだけが孤立して演奏しているような形になることもしばしば。

Baileyの理念をよく理解したミュージシャンとの共演では、共演者それぞれが勝手気ままな方向を向いて、バラバラなことをやっているようにも聞こえる(YANKEESとか)。

これが、「聴いて楽しいか?」と言われると、「YES」と答えられる人は多くない。

常に未知の世界を求めての演奏は、既存の音楽の否定から始まっているので、調子が悪いと単に何か「あれもやらない、これもやらない」とすべてを避けて通る「障害物競争」のように聞こえてしまうこともある。

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なにはともあれ、このBALLADSを順番に追っていこう。

収録時間は約40分。Stella by Starlightが7分、Body and Soulが6分あるが、他は1~3分と1曲1曲がとても短い。Free improvisationが苦手な人も、少し待てば美しいmelodyが出てくるので、聞きやすいはずだ。

2度切れ目が入るが、ほとんどmedleyで演奏が続く。おそらくテープ編集は皆無だろう。集中力、緊張感、持続力、がすごい。超人です。

ちょっとのテーマの後、free improvisationに入るが、その中に時々混入してくる曲の断片がまた美しい。

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01. Laura (lyr - Johnny Mercer, comp - David Raksin)

1944年発表。映画 Otto Preminger(dir) (1944) LAURA(ローラ殺人事件)(主演:Gene Tierney, Dana Andrews)の挿入楽曲。この映画は見たことない。

Frank SinatraやJulie Londonが歌ってヒットしたらしいが、自分は全然知らない。

Jazzファンにはなんといっても、Charlie Parkerのレパートリーとして有名。With Stringsとして演奏されることが多かった。

しかし、Baileyの弾くmelodyにはParkerフレーズは出てこないので、Parkerの演奏を念頭に置いているような感じではない。

あと、Parker followerであるEric Dolphyの演奏も素晴らしい。

参考 :
・Wikipedia (English) > Laura (1944 film)(This page was last edited on 11 October 2017, at 00:16)
https://en.wikipedia.org/wiki/Laura_(1944_film)
・Wikipedia (English) > Laura (1945 song)(This page was last edited on 12 August 2017, at 09:46)
https://en.wikipedia.org/wiki/Laura_(1945_song)

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数秒間の小手調べがあった後、いきなり始まるLauraのテーマ。衝撃です。

1st chorusは至極まっとうに弾く。Codeの美しいこと、美しいこと。2nd chorusはfakeが入り、その後はfree improvisationに入るがあまり暴れない。Ballad集だもんな。

この曲で、このアルバム全体の雰囲気が決まった。全部の曲にこのLauraの余韻が残り、medleyで曲が続くこともあり、統一感抜群の作品となった。

時おり、Body and Soulのmelodyがかすかに混入するのも微笑ましい。medley形式で次の曲に入る。

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02. What's New (lyr - Johnny Burke, comp - Bob Haggart)

1939年発表。Bob Crosby OrchがTeddy Graceのvocalでヒットさせた。続いてBobの兄Bing Crosbyが歌って、こちらはもう大ヒット。

以後、Jazz Standardとして歌い続けられている名曲。Billie Holidayあたりが一番有名なのかな?歌ものに弱いので、よく知らない。

Linda Ronstadt/WHAT'S NEW [Elektra/Asylum] pub.1983 での元気いっぱいの表題曲は、Jazzとは言えないが大好きだなあ。

参考 :
・Wikipedia (English) > What's New(This page was last edited on 14 August 2017, at 09:37)
https://en.wikipedia.org/wiki/What%27s_New%3F

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01から連続している上に、テーマの途中から入るため、ちょっとわかりにくい。あとで、お馴染みのフレーズが出てくる瞬間を楽しみに。

この曲もcodeワークが実に美しい。ただしfake色が強いので、ちょっとわかりにくい展開だ。とはいえ、いつものfree improvisationに比べるととても親しみやすい。また少しだけBody and Soulが混じる。

この曲はきっちり終わり、一応切れ目が入るが、すぐさま次の曲へ。

ツヅク

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(追記)@2018/11/26

2017年10月30日月曜日 美の極致 Derek Bailey/BALLADS & STANDARDS (5)

では、BALLADSの姉妹編STANDARDSのジャケ写について語っていますが、当時はモデルが誰かはわかりませんでした。

2018年11月26日月曜日 Derek Bailey/STANDARDSのジャケ写モデルがわかった

で、ようやくわかったそのモデルの正体について語っています。

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