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stod phyogs 2015年9月21日月曜日 音盤テルトン(9) P.I.L. / ALBUMで、Malachi Favorsはどこに出てくる?
からの移籍です。日付は初出と同じです。
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Public Image Ltd.(以下PIL) / ALBUM [Virgin/Elektra] pub.1986
という文字通り「アルバム」があります。
CDの時はタイトルが「compact disk」になり、カセットの時は「cassette」になり、ダウンロードの時は「mp3」になるという、ふざけた作品なんですが、面倒なのでここでは「ALBUM」で通します。
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Sex Pistolsで一世を風靡したJohnny Rottenが、本名のJohn Lydonに戻して1978年に結成したバンドがPILでした。
しかしこのバンドも、1980年代なかばには空中分解。この作品はプロデューサーにBill Laswellを迎え、いろんなジャンルから一流ミュージシャンをかき集めて作ったもの。PIL名義ですが、Lydonのソロ作品と言っていいでしょう。
Sex PistolsもPILもろくすっぽ聞いていないのに、この作品に手を出したのは、当時(今もですが)仕掛け人として大活躍だったBill Laswellに興味を持ったからに他なりません。
当時、日々の生活はおもしろくないことばかりで、気分転換に、と渋谷のタワーレコードに買いに行ったのを覚えています(アナログ)。
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この作品のジャケットには、参加ミュージシャンのクレジットが一切ありません。プロデューサーとしてJohn LydonとBill Laswellの名前があるだけ。
雑誌などで、徐々に情報が出回ってきます。「ギターを弾きまくってるのはZappaんとこのSteve Vaiだってよ」、「ドラムはTony Williamsだって」「え!なにそれ?」、てな感じ。
そのうち「坂本龍一も弾いてるって」「あ、あれ、やっぱそうか」とか「Ginger Bakerもたたいてる」「何、このレコード(笑)」といった具合でした。
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普段ロックはほとんど聴きませんが、Steve Vaiのギターにねじ伏せられ、普通にハードロックの爽快感に酔いました。
で、結局この作品の評価は「ハードロックの意外な快作」というところに落ち着いてるようで、「ロックは死んだ!」と吐き捨てたLydonが、こういう「まっとうなロック」を残した倒錯感がまた素晴らしい。
イントロからエンディングまで、手を変え品を変え休まず弾きまくるSteve Vaiが最大の聴きどころですが、これに全く負けないLydonのヴォーカルも凄すぎです。Laswellのおもちゃになりながらも、100%存在感を出せるあたりがLydonの凄さ。
しかし、John Lydonにハードロックをやらせよう、ってどういう発想なんだ!?参りました。
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Laswellプロデュースというのは、それこそ山のようにあり、ハズレも山のようにあります(むしろハズレの方が多いかも)。その中でもこれは一番成功した作品かもしれません。
Laswellプロデュースで好きな作品ベスト3に入りますね。残りの2つは、
・Herbie Hancock / SOUND SYSTEM [Columbia](1984)
・Material / SEVEN SOULS [Virgin](1989)
SEVEN SOULSでは、ビート作家でジャンキーのWilliam S. Burroughsを引っ張りだして来て、全編にわたってナレーションさせるなど、全く「なんてことしやがる!」作品になってます。
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で、ALBUMの話に戻りますが、長らくこの作品の参加ミュージシャンははっきりしないままでした。しかしどっからどう漏れたのやら、最近では、Wikipediaやディスコグラフィー関係のサイトに一応載るようになりました(注1)。
Tony WilliamsとGinger Bakerの分担もわかって、「そういや違うなあ、なるほど」と感心。所詮バカ耳です。
で、一番驚いたのがArt Ensemble of Chicago(AEC)のべーシストMalachi Favorsの参加を知った時でした。まあ、John Lydonで、ハードロックで、そこにMalachiのアコースティック・ベースを引っ張り出してくる感覚に呆れます。ごった煮具合もここまで来てたか、と改めてめまいがしました。
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で、Personnelをまとめてみました。主に参考にしたのは、
・Discogs > Public Image Ltd. > Album Virgin 1985 > Versions (39) : Album (LP, Album) Columbia YX-7376-AX Japan 1986(as of 2015/09/21)
http://www.discogs.com/Public-Image-Ltd-Album/release/3744833
・Wikipedia > Album (Public Image Ltd album)(This page was last modified on 15 August 2015, at 09:45.)
https://en.wikipedia.org/wiki/Album_(Public_Image_Ltd_album)
・Fodderstompf : PiL Fansite Archive > Discography > LP Discography > ALBUM VIRGIN V 2366 (2/86) > Personnel : Full track by track breakdown(as of 2015/09/21)
http://www.fodderstompf.com/DISCOGRAPHY/LP/albinfo.html
最後のファンサイトのクレジットが一番信頼置ける、とみます。
1. F.F.F.
John Lydon (ld-vo) Bernie Worrell (org) Steve Vai (g) Nicky Skopelitis (g) Bill Laswell (el-b) Tony Williams (ds) Bernard Fowler (bk-vo)
2. Rise
JL (ld-vo) 坂本龍一 (kb) SV (g) NS (g) Shankar (el-vln) BL (el-b) TW (ds) BF (bk-vo)
3. Fishing
JL (ld-vo) SR (kb) SV (g) NS (g) BL (el-b) Malachi Favors (b) Ginger Baker (ds) BF (bk-vo)
4. Round
JL (ld-vo) BW (kb) SV (g) NS (g) Sk (el-vln) BL (el-b) GB (ds) Aiyb Dieng (perc) BF (bk-vo)
5. Bags
JL (ld-vo) NS (kb) SR (kb) SV (g) BL (el-b) MF (b) GB (ds) BF (bk-vo)
6. Home
JL (ld-vo) BW (org) SV (g) NS (g) BL (el-b) TW (ds) BF (bk-vo)
7. Ease
JL (ld-vo) SR (kb) SV (g) Jonas Hellborg (el-b) MF (b) GB (ds) Steve Turre (didjeridu) BF (bk-vo)
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納得がいったのは、ベースはほとんどBill Laswellだったこと。以前、ベースのクレジットはJonas Hellborgだけになってる資料が多かったので、全編Jonasかと思っていました。
Jonas Hellborgはあんまり聴いたことないんですが、ジャコパス系のテクニシャンという認識です。Jonasにしては、小技がなくずいぶん地道に弾いてるな、という印象でしたが、ほとんどがLaswellなら納得です。徹底的に跳ねないベース。
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Tony Williamsのドラムは、それにしても重い。MilesやHancockを翻弄していた(Shorterは動じず)疾風ドラム小僧時代の面影はありません。
Ginger Bakerのよくころがるドラムとは対照的。といっても、Personnelが判明するまでは、区別つかなかったんですが←バカ耳。
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で、Malachi Favorsはどこに出てくるのでしょうか?
一番わかりやすいのは、5. Bags。「Black rubber bag, black rubber bag, black rubber bag,・・・・」とお経のように繰り返すLydonを、Malachiのアコースティック・ベースが引っ張ります。本編に入るとBill Laswellのベースに切り替わりますから、わりと効果音的な使い方。
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3. Fishingはわかりにくい。左チャンネルから、何やら弦楽器がギコギコ聞こえる。これがMalachiのよう。
ベースにしては音が高いような気がするので、チェロかも知れない。Shankarのヴァイオリンではないと思う。Shankarはこんな音出さないだろう。しかしこれホントに必要な音か?って気がしないでもないけど。
サビの部分では、坂本龍一が「戦場のメリークリスマス」チックなシンセで、一瞬にして自分の世界に持ってくのも面白い。
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7. Easeは冒頭のディジュリドゥが印象的ですが、これはトロンボニスト/ほら貝吹きのSteve Turre。で、Malachi Favorsはどこにいるのかというと、よくわかりません(笑)。
もしかすると、モヤ~ンと聞こえるベースがMalachiか?Jonasはこんな地味なベース弾きそうにない。とすると、ここはアコースティック・ベースではなく、エレベを弾いてるのかも(AECでも結構エレベを弾く)。
だと、Jonas Hellborgの行き場がなくなるのだが、ところどころ聞こえるディストーション・サウンドがJonasなのかもしれない。この曲にはSkopelitisはいないことになっているし(注2)。
そもそもこのALBUMでのギターは、Vaiの多重録音なのかNicky Skopelitisの音がどれなのか、実にわかりにくい。その分Skopelitisが割りを食ってしまっているのだが、彼はまあLaswell子飼いのメンバーなので、そのへん割り切ってお仕事してるんでしょう。
7. Easeはもう少し分析の余地がありますね。
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Bernie Worrell(もともとP-Funk勢なのだが、Laswell軍団出入りの馴染み)や坂本龍一のキーボードも効果的に使われていて、体育会系ハードロックだけではないところを見せてくれました。
しかしこのALBUMはおもしろい。何度聴いても飽きない。やはりこういう、小ネタも効かせつつの仕掛けは抜群にうまいです>Bill Laswell。
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いまさら1986年の"ALBUM"をレビューしてみましたが、改めて聴き直して「名作は古くならない」ことを実感しました。若い人にもぜひ聴いてほしい作品です。
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(注1)
1986年発売の日本盤にはPersonnelが載っていたらしいんですが、当時は知りませんでした。輸入盤派なので。
(注2)
・Silent Dave Initiative / siletwatcher.net > Bill Laswell Page > Discography > Alphabetical Index > PUBLIC IMAGE LTD. : ALBUM/COMPACT DISC(as of 2015/09/21)
http://www.silent-watcher.net/billlaswell/discography/pqr/album.html
では、Jonas Hellborgの出番は、7. Easeではなく4. Roundになっている。そっちが正しいとしても、Jonasがどれなのかわからないのだが・・・。