2016年9月3日土曜日

音盤テルトン(17) Voodoo、Sonny Clark、Hard Bopper John Zorn、Louise Brooks-その4

本エントリーは
stod phyogs 2016年9月3日土曜日 音盤テルトン(17) Voodoo、Sonny Clark、Hard Bopper John Zorn、Louise Brooks-その4
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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MORE NEWS FOR LULUにJohn Pattonの曲が1曲入っています。Minor Swing。

初出は

John Patton/THAT CERTAIN FEELING [Blue Note] rec.1968

残念ながら持ってないし、聴いたこともない。

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Pattonは1970年までBlue Noteに録音があるが、その後1970年代にはほとんど消息がつかめない。1983年には、フランスのNilvaから久々のリーダー作を発表。

John Zornとは

John Zorn/THE BIG GUNDOWN [Elektra/Nonesuch] rec.1984-85
John Zorn/SPILLANE [Elektra/Nonesuch] rec.1986-87

で共演を果たす。その後、John ZornとJohn Pattonはしばしばギグを共にし、信頼関係を築いていったらしい。

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この辺からPatton自体の活動も活発化。折からのオルガン再評価ブームも手伝って、ついに1993年、10年ぶりのリーダー作を発表。それが

Big John Patton/BLUE PLANET MAN [キング/Paddle Wheel→Evidence] pub.1993


















Art Direction : Rothacker Advertising & Design

1993/04/12-13, NYC
John Zorn (as), Pete Chavez (ts), Bill Saxton (ts, ss), BJP (org), Ed Cherry (g), Eddie Gladden (ds), Lawrence Killian (cga), Rorie Nichols (vo-06)

01. Conga Chant
02. Funky Mama
03. Cloudette
04. Chip
05. Popeye
06. What's Your Name ?
07. U-Jaama
08. Bama

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これが日本制作であるのは誇っていい。キング/Paddle Wheelエライ!

それも日本制作盤にありがちな、スタンダード集とか懐古趣味の再会モノではなく、John Pattonの現在(当時)を記録したクリエイティブなものになっている。

Pattonは快調そのものだし、サイコー。Archie SheppのU-Jaamaなんかやってるのも、珍しくも面白い。

John Zornはゲスト扱い。他にsaxが二本もいるので出番は少ない。普通のソロやアンサンブルはそのお二人さんにまかせ、ここではいつものZornらしくフリーな圧縮ソロを繰り広げる。なんか梅津和時っぽい。06でソウル系のヴォーカルにオブリガードをつけるJohn Zornは珍しい。

それにしても凶悪なヴィジュアルになってしまったPattonにびっくり。

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tsの一人Bill Saxtonも、実力の割には恵まれない人だ。

Bill Saxton/BENEATH THE SURFACE [Nilva] rec.1984

なんかは名盤といっていい出来なのに、全然知られていないしCD化すらされていない。

Bill Saxtonの話は、いつかまた別に取り上げよう。

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そして、Pattonのオルガン・トリオ(org + g + ds)にJohn Zornのワンホーン、という夢のような作品が発表される。

John Patton/MINOR SWING [DIW] pub.1995


















Cover Design : Arai Yasunori (Picture Disk)

1994/12/21, NYC
JZ (as), JP (org), Ed Cherry (g), Kenny Wollesen (ds)

01. The Way I Feel
02. Tyrone
03. Minor Swing
04. The Rock
05. Along Came John
06. Lite Hit
07. B Men Thel

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これまた日本制作であるのはさらに誇っていい。超名盤です。

John Zornは、ここではJohn Pattonに敬意を表してか、あまり暴れない。ハードバップ・アルト・サックス奏者としてのJohn Zornをたっぷり聴くことができる作品。

Jimmy Smith with Stanley Turrentine/PRAYER MEETIN' [Blue Note] rec.1963

を思わせる渋い出来です。Ed Cherryのギターもすごくいい効果。

Pattonがフット・ペダルで作り出すベース・ラインのスイング感は素晴らしい。特にMinor Swing。「フット・ペダルをマスターしてるのは、Milt Bucknerとオレだけだぜ」とか言ってる話をどっかで読んだが、まさにその通り。

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ところでジャケットのPattonはBLUE PLANET MANジャケの凶悪な姿と違って、えらくカッコイイ。

それもそのはず。実はこの写真は1994年のPattonではなく、1960年代Blue Noteのセッション時のPattonなのだ。撮影はFrancis Wolff。カッコイイのも当然ですね。

John Patton/BOOGALOO [Blue Note] rec.1968

のジャケ写と同じ服装なので、その頃の写真かもしれない。ただしBOOGALOOは後の発掘モノなので、そのアルバム録音時の写真とは限らないが・・・。

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John Zornは、この頃からfree improvisation、4ビート、Ornette Coleman、ユダヤ音楽Klezmerをいい塩梅に組み合わせたMASADAシリーズを開始する。

John Zorn/MASADA : ALEF (1) [DIW/Avant] pub.1994

の録音は1994/02/20。それまでの4ビート実験がうまく生かされている。アルト奏者John Zornの実力を知りたいなら、こちらもぜひ。

MASADAシリーズは10枚続き、Tzadikからはライブ盤も続々と出ている。驚くべき仕事だ。自分はあんまりカバーできてないけど。

1990年代Jazzを代表する作品群なのだが、Jazzジャーナリズムでの評価は「ごく一部での大絶賛」にとどまる。なんてこった・・・。

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とまあ長々とJohn Zornの話をしてきたわけですが、これはZornを4ビート/ハード・バップの側面で切ったもの。Zornの世界はまだまだ奥が深い。

いつかまた続編を書いてみよう。

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(追記)@2016/09/04

それにしてもJohn Patton/MINOR SWINGの文字通りマイナーぶりにはまいるなー。

かく言う自分も知ったのはずいぶん後だったし、知っている人はほとんどいないんじゃないか?Web上でも、数えるほどしか情報を見かけない(販売情報だけ)。

最近Jazz方面では、たまに復刻モノをリリースしているだけのDIWだが、是非再発してほしい。Tzadikじゃ出してくれそうにないし、Fresh Soundあたりからでどうだ?

なんて、勝手なこと言ってますが、中古で見かけた人は、逃すと次に見かけるのはいつかわからんので、絶対買い!

2016年9月1日木曜日

音盤テルトン(16) Voodoo、Sonny Clark、Hard Bopper John Zorn、Louise Brooks-その3

本エントリーは
からの移籍です。日付は初出と同じです。

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NEWS FOR LULU、MORE NEWS FOR LULUのジャケットを飾るショート・ボブの妖艶な女性。これは、知ってる人はよくご存知。

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映画

George Willhelm Pabst監督 (1929) DIE BÜCHSE DER PANDORA(パンドラの箱).

の主役Luluを演じたLouise Brooks (1906-85)です。これはドイツ映画ですが、意外にもBrooksは米国人なのです。

映画『パンドラの箱』は、2006年に紀伊國屋書店からDVD化もされているようですが、最近はなかなか見かけない。見つけたら買おっと。

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Sonny ClarkのNews for Luluという曲があり、これを取り上げたアルバムを作ったJohn Zornがそれをアルバム・タイトルにし、そしてこの「Lulu」にひっかけて、映画『パンドラの箱』の主役Lulu(Louise Brooks)をジャケットに持ってきた、というわけ。なんかこっちの方が連想ゲームだな。

John Zornはすごい映画マニアでもあるのですね。『パンドラの箱』はLouiseの代表作と言われています(観たことないけど)。

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しかし、Sonny Clarkの曲News for Luluは、『パンドラの箱』のLuluと関係があるのだろうか?曲が発表された1957年は、映画の約30年後、当時リバイバルで上映されていたとか?

「lulu」はドイツ語・フランス語・英語の俗語で「素晴らしい物・人」という意味がある(注1)ので、このLuluは固有名詞ではなくて、一般名詞なのかもしれない。「かわい子ちゃんの噂」程度の意味で。

あるいはLuluはLouiseの愛称と解すると、「Louiseちゃん(Lulu)の噂」になる。

今のところ『パンドラの箱』のLuluとは関係ないんじゃないか?と思っているが、本当のところはよくわかりません(注2)

(注1

「lulu」の大元をたどると、アラビア語の「lulu=真珠」にたどり着く。これがヨーロッパに入って「美しいもの」「かわいいもの」「大事なもの」になったらしい。そしてLouis(e)の愛称「Lulu」とも合体したのだろう。

(注2)@2016/09/02

Sonny Clarkの曲News for Luluの「Lulu」がわかりました。Clarkが飼っていた犬の名前だそうです。German Shepardの雑種というから、Louise Brooks=Luluとは関係なさそうですね。

参考:
・BLUE NOTE : THE FINEST IN JAZZ SINCE 1939 : HIGH FIDELITY > SPOTLIGHT > OLDER POSTS >>> Bradley Farberman/HEADING BACK TO SONNY'S CRIB (January 8 2013)
http://www.bluenote.com/spotlight/heading-back-to-sonnys-crib

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同様にThelonious Monkが演奏していた曲で、Lulu's Back in Townという曲があります。これはMonkの曲ではなく、1935年、Al Dublin作詞、Harry Warren作曲。ミュージカル映画、Lloyd Bacon監督 (1935) 『Broadway Gondolier』の挿入歌。

当時、Fats Wallerも歌って大ヒットしたんだそうな。Monkはその影響を受けたわけですね。

このLuluも一般名詞で「かわい子ちゃんが町に帰って来た」あるいは「Louiseちゃん(愛称)が町に帰って来た」程度の意味と思われます。

参考:
・Wikipedia (English) > Lulu's Back In Town (This page was last modified on 2 May 2016, at 12:14)
https://en.wikipedia.org/wiki/Lulu%27s_Back_In_Town
・Wikipedia (English) > Broadway Gondolier (This page was last modified on 7 February 2016, at 21:02)
https://en.wikipedia.org/wiki/Broadway_Gondolier

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映画『パンドラの箱』の原作は、ドイツの戯曲

・Frank Wedekind (1895) ERDGEIST(地霊).
・Frank Wedekind (1904) DIE BÜCHSE DER PANDORA(パンドラの箱).

いわゆる「Lulu二部作」。映画『パンドラの箱』はこの二作を合わせて映画化したもの。

参考:
・ウィキペディア > ルル二部作(最終更新 2016年6月28日 (火) 15:40)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%AB%E4%BA%8C%E9%83%A8%E4%BD%9C
・Wikipedia (English) > Frank Wedekind (This page was last modified on 11 August 2016, at 14:20)
https://en.wikipedia.org/wiki/Frank_Wedekind

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魅力的だが、次々と男を破滅させる魔性の女Luluが主人公。Luluは最後はLondonに渡り、Jack the Ripper(切り裂きジャック)に殺される。

Louise Brooksは愛称がLuluになることもあり、Lulu役にピッタリですね(映画は見たことないけど)。美しくもかわいく、そして神秘的。

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戯曲、演劇、映画のLuluについては、山口昌男が論考をたくさん書いています。

・山口昌男 (1977.9) ヴェデキント「ルル」についての神話批評の前提となるようないくつかの覚え書き. 新劇, vol.24, no.9, pp.49-59.
・大岡昇平, 山口昌男 (1985.1) 「ルル」と昭和モダニズム. 中央公論, vol.100, no.1, pp.270-280.
→ 再録 : 山口昌男 (1986.5) 『スクリーンの中の文化英雄たち』. 556pp. 潮出版社, 東京.
・山口昌男・談, 川村伸秀・聞き手 (2015.9) 『回想の人類学』. 350pp. 晶文社, 東京.(「悪女ルル」という章がある)

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そして、映画『パンドラの箱』のLulu=Louise Brooksを大々的に取り上げた素晴らしい本が、

・大岡昇平 (1984.10) 『ルイズ・ブルックスと「ルル」』. 116pp. 中央公論社, 東京.


















大岡昇平のエッセイに加え、というよりはそれをはるかに上回る分量を映画『パンドラの箱』からのスティールショット、それもLouise Brooksの姿が占めています。Louise Brooks写真集と言ってもいいでしょう。

この本には、Louise Brooksの回想録からの抜粋も含まれており、まさにLouise Brooksの魅力を伝える決定版とも云えます。

私は図書館から借りたのですが、ぜひ持っておきたい本の一つ。しかしなかなか古本屋でも売ってないのですね。気長に探そう。少しサイズを小さくして、ぜひ再発してほしいなあ。

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注目すべきは、その出版年1984年。この本のおかげで、日本では当時ちょっとしたLouise Brooksブームが起こったようだ。私も雑誌や広告なんかで見た記憶がある。

そしてようやくJohn Zornに戻るのだが、その頃Zornはしょっちゅう日本に来ていた。映画マニアのZornのこと、当然Louise Brooksや映画『パンドラの箱』のことは知っていただろうが、この本を手にして狂喜したに違いない。いや、絶対そうですよ。

NEWS FOR LULUの発表はその5年後、1989年なのです。大岡本を見て、John ZornはLouise BrooksのLuluをジャケ写に使おうと決めたに違いない。

って断言してしまいますが、まあ当たっていると思いますよ。

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ところで、Louise Brooksのショート・ボブは、1930年代昭和初期の日本でも「ブルックス・カット」として大流行。いわゆる「モガ(modern girl)」の髪型としてよく知られています。

その後も日本ではこのショート・ボブ人気は連綿と続き、最近ではむしろ日本女性の代表的な髪型と認識されているかもしれない。モデルの山口小夜子の影響もすごかったし。

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私は、日本の20世紀後半のポップ・カルチャーは、20世紀前半(特に戦前)のUSA文化にルーツがあると見ています。

特にWalt DesneyやBetty Boopなどのアニメですね。その頃のUSAアニメには「カワイイ」が充溢しており、これが日本の「カワイイ」の源泉でしょう。

USAでは、この「カワイイ文化」は徐々に衰退していき、主に日本で生きながらえてきた、と云うよりむしろ日本で大発展したのですな。

Walt Desney Productionは1992年に『Aladdin(アラジン)』でアニメ制作を再開しましたが、そこには往時の「カワイイ」はもはや見当たりませんでした。ヒロインJasmineのかわいくないこと(美人だけど)。

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Louise Brooksのショート・ボブも、日本で人気が続いた「20世紀前半USA文化」の一つ。

Brooksと同時期、USA映画界では大スターであったLillian Gish(1893-1993)。Gishについては、Brooksも同時代のスターとして回想録で触れていますね。この人は、今のUSA映画界ではあまり見られない「カワイイ系」の女優さんです。

参考:
・Wikipedia (English) > Lillian Gish (This page was last modified on 11 July 2016, at 22:07)
https://en.wikipedia.org/wiki/Lillian_Gish

Brooksとは対照的に、この人は「ゆるふわ系」の元祖です。Gishは今見てもカワイイし、それに1980年代でもまだ映画に出演し、「カワイイおばあちゃん」ぶりを見せてくれていました。

Gishの「カワイイ」が日本文化に与えた影響も大きいと思うんだが、どうだろう?

1970年代の「りぼん」の「乙女ちっく文化」や、その流れをくむ「カントリー雑貨・家具」「ピンクハウス」などは、Gishにその源泉を求めることができるかもしれない、なんて思ってるのだが・・・。

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BrooksやGishの話をしていると、いつまでたっても終わらないので、とりあえずここで切りましょう。

もう1回、John Zornと今度はJohn Pattonの話。

(ツヅク)

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(追記)@2016/09/02

おまけでNEWS FOR LULUのinner sleevesからLouise Brooksのご尊顔を。