2017年5月7日日曜日

Joe Henderson/BARCELONA

・Joe Henderson/BARCELONA [enja] rec.1977&78, pub.1979, re-issue 1992(日本クラウン)


Photo : Viktor Gwiazda
Cover Design : Horst Weber & Matthias Winckelmann

1977/06/02, Wichita State Univ. (live), Kansas
JH (ts), Wayne Darling (b), Ed Soph (ds)
01. Barcelona
02. Barcelona (cont.)

1978/11/15, Munich, West Germany
JH (ts), WD (b)
03. Y Yo la Quiero (And I Love Her) (注)
04. Mediterranean Sun (注)

(注)
初出LPでは曲名は逆になっているが、03はその後何度もY Yo la Quiero(あるいはY Todavia la Quiero)の曲名で演奏されているので、ここでは、曲名が入れ違ったものと判断されている。

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これ、ジョーヘンの隠れた代表作だと思っている。

Pianoless trioあるいはbassとのデュオで構成。特にliveでのtrioはすごい。

Barcelonaという曲名はついているが、曲のテーマなどはない。全編28分に渡るfree improvisationである。

といっても、絶叫型free jazzではないし、あるいは、European free improvsationにありがちな、つかみ所のない点描型free jazzでもない。

まっさらな大地にメロディを紡ぎ出していく、というOrnette Coleman型のfree jazzである。

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これを実現できた人は、実はOrnette以外ほとんどいない。一時、Sonny RollinsがOUR MAN IN JAZZでやりかけたが、どうしても既存フレーズ(手癖ともいう)が多く、成功したとは言いがたかった。

他の1960年代free jazzはというと、構成力に乏しい絶叫型が多く、Ornetteが目指すfree jazzとは違う道を選んだものだった。

あるいは、free jazzといいつつ、実はpenta-tonic scaleを上がり下がりするだけで、時折それにfreak toneを交える、という、創造性はあまり高くないものも、山のようにあった。まあ、そういうのも好きなんだけど。

このBarcelonaは、free jazzの歴史の中でも特筆すべき作品のはずなんだが、そういった文脈で語られることもない不幸な作品といえる。

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Barcelonaは、bass bowingとのデュオから、探り探り曲が始まる。冒頭は、ジョーヘンお得意の汽笛のようなフラジオを駆使したテクニックお披露目。これにSophのdsが絡み始めると、ようやく曲が展開し始めるが、テーマらしきものはやはりない。

Darlingがリードする4ビートのパートになると、ようやく4ビート・ファンにも聴きやすくなるのだが、そこでA面(CDの01)が終わる(笑)。

B面(CDの02)はBarcelonaの続き。途中カットがあるようで、アップテンポの4ビートになっている。4ビートの部分は、bassがコードを適当に決めて、それに乗っかってジョーヘンがとりとめもなくアドリブを展開するというやり方。

どうやってこれを切り上げるのかと思っていたら、dsソロに入って区切り。即席trioとは思えない、当意即妙のタイミング。

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Ed Sophという人は、あまり知られていないが、Woody HermanやClark Terryなどと共演歴のある、big band畑のdrummerだ。この時はおそらく臨時編成で駆り出されたものと思われる。

ジョーヘンの曲は、初見でこなすには結構面倒くさそうなので、「ならば、いっそ全編freeで・・・」となったのかもしれない。

また、この曲以外にも演奏は続いたと思われるが、それはおそらくせいぜいお馴染みのstandaradsだったのではあるまいか。Enjaレーベルの興味を引いたのは、この特異なBarcelonaだけだったので、これだけを収録したのかもしれない。

などと想像するのだが・・・。

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全編に渡り、bassのWayne Darlingが曲を動かしている感がある。相当大変だったろうな。この人はbowingが達者なこと、音程が正確なことが特徴。ローカル・ミュージシャンに置いておくだけではもったいない人だ。

このDarlingもWoody Hermanのとこの人らしい。大学でのコンサートにWoody Herman Bandも招かれていて、そこからb, dsを借りたのかもしれない。これも想像。

翌年の西ドイツ録音には、このDarlingだけが参加。これもよくわからない。ジョーヘンとDarlingの共演はこの2回だけなのだ。

ジョーヘンのEuropeツアー・メンバーになったのか、それとも、たまたまDarlingもドイツにいて録音のチャンスがあったのか・・・。

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デュオでは、Spanish ModeのY Yo la Quiero(And I Love Her)が注目。これが初出なのだ。名曲。

ジョーヘンの作る曲は、ちょっと変わった曲が多く、名曲も多い。Recorda Me、Blue Bossa(注) Home Stretchなどが有名。

(注)@2017/05/14
Blue Bossaの作曲はKenny Dorhamでした。初出からしてジョーヘンの主要レバートリーなので、すっかりジョーヘン作曲と思い込んでいた。

Mediterranean SunもSpanish Modeの曲。Barcelonaの冒頭と似ていて、ジョーヘンのテクニックお披露目的な演奏。

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ジョーヘンのpianoless trioというのは、おそらくこれが初録音。その後たびたびpianoless trioで録音するようになる。

(1) Joe Henderson/THE STATE OF THE TENOR : LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD VOLUME 1 & 2 [Blue Note] rec.1985
JH (ts)+Ron Carter (b)+Al Foster (ds)

(2) AN EVENING WITH JOE HENDERSON, CHARLIE HADEN, AL FOSTER [Red] rec.1987
JH (ts)+Charlie Haden (b)+Al Foster (ds)

(3) Charlie Haden, Joe Henderson, Al Foster/THE MONTREAL TAPES : HOMAGE TO JOE HENDERSON [Verve] rec.1989
JH (ts)+Charlie Haden (b)+Al Foster (ds)

(4) Joe Henderson/THE STANDARD JOE [Red] rec.1991
JH (ts)+Rufus Reid (b)+Al Foster (ds)

(1)が有名だけど、実はあんまり好きじゃない。Redの2枚(2)(4)は聴いたことない。

(3)はHaden主導のコンサートだが、これもいい。ジョーヘンの死後発掘されたアルバム。

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しかし、それらよりも、ジョーヘンpianoless trioの代表作はこれだ↓

・YouTube > Joe Henderson, Dave Holland and Al Foster - Muenchner Klaviersommer 1993 (uploaded by Leonardo Alcântara, 2012/05/21)
https://www.youtube.com/watch?v=IJCKcPau5uw

1993/07/16, Munich, Germany
JH (ts), Dave Holland (b), Al Foster

01. Serenity
02. Recorda Me
03. Body and Soul
04. Take the 'A' Train
05. Y Yo la Quiero (And I Love Her)

全編に渡り、Dave Holland(共演は珍しい)のリードが光る。それにしてもここまでdsは全部Al Foster。よっぽどお気に入りなのだな。

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BARCELONAはジョーヘン不遇時代の作品だが、あまり注目されていないし、再発も少ない。実はかなりの名盤なので、もっと入手しやすくしてほしいものだ。

2017年5月3日水曜日

Nana Vasconcelos/SAUDADES

Nana Vasconcelos(1944~2016)はBrazilのpercussionist。Milton Nascimentoなどとの共演からUSAに進出するようになり、Jazzとも関わりは深くなった。

Pat Methenyとの共演、Brazilでも異色のミュージシャンEgberto Gismontiとのコラボなど、Brazilの、特に野性的なテイストを欲しがるミュージシャンに引っ張り凧だった。

自分としては、Colin Walcott (sitar)、Don Cherry (tp)とのグループCODONAの3作が印象的だった。ECMならではの組み合わせとサウンド。

惜しくも、来日直前2016年3月に亡くなった(享年71歳)。

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Nana Vasconcelos/SAUDADES [ECM] rec.1979, pub.1980


Cover Design : Horst Moser

1979/03, Ludwigsburg, West Germany

NV (berimbau, perc, vo), Radio Symphony Orchestra Stuttgart (strings), Martin Gutesha (cond), Egberto Gismonti (strings comp)
01. O Berimbau 「おお、ビリンバウよ」
02. Vozes (Saudades) 「声(郷愁)」
03. Ondas (Na óhlos de Petronila) 「波浪(ペトロニラの中心で)」

NV (perc), EG (g)
04. Cego Aderaldo 「盲人アデラルド」

NV (berimbau)
05. Dado 「所与」

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01. O Berimbau 「おお、ビリンバウよ」

18分の大作。タイトル通り、Nanaのberimbauが主役。

Berimbauとは、弓(状にしならせた棒に弦を張ったもの)を楽器にしたもの。弦は針金。下にひょうたんがついている。主に弦を棒切れで叩いて音を出す。音程はほとんど出せないので、打楽器である。ひょうたんは主に共鳴用。詳しくはこちらを↓

参考:
・Wikipedia (English) > Berimbau(This page was last modified on 25 April 2017, at 04:05)
https://en.wikipedia.org/wiki/Berimbau
・BÊ-A-BÁ DO BERIMBAU/ビリンバウ入門(as of 2017/05/03)
http://www.urucungo.org/

Cubaにもあり、Africa起源とみられている。Celia Cruzのヒット曲にもBerinbauというのがあるくらい。

さて、この曲は、Nanaのberimbau独奏が中心。これに時おり、ジャングルの鳥か猿のような雄叫びを交える。シャカシャカした音が交じるのは、caxixi(カシーシー、小ぶりのマラカスみたいな楽器)を同時に振っていると思われる。

かと思うとNanaの演奏の切れ目には、シンフォニーがからむという変な曲だ。シンフォニー部はすべてEgberto Gismontiの作曲。

このあたりがECMらしいところで、好き嫌いも分かれるところだろう。しかし、弦楽シンフォニーをEuropeの民族音楽ととらえて聴くと、がぜん面白くなるから不思議。Africa-Brazil文化とEurope文化のミスマッチだ。

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02. Vozes (Saudades) 「声(郷愁)」

さあ、このアルバム最大の聴きどころは実はこの曲。

Nanaの歌というか声が多重録音で繰り広げられるので、「voze(声)」が複数形なのはわかるとしても、「saudade(サウダージ/郷愁)」が複数形である理由はよくわからない。

そのへんは、ポルトガル語としてもいろいろむずかしいところで、どっちでもいい、という説もある。

とにかくこの多重録音がスゴイ。

「ダゥンダダダーイ」というNanaの声が、多重録音で繰り返されるのだが、これがルーズなカノンになっていて絶妙。後になるほど重ねがどんどん増えて、だんだんカオス状態となる。

途中からは、シンフォニーがこれと全く無関係のごとく、静かに奏でられる。何これ?

Nanaの声は、最後はうがいみたいなになり、「ああーああああっ!」でクライマックスを迎える。わー、なんだこれは!

この曲を初めて聞いたのは、実はNHK-FM。意外なことに渋谷陽一の番組であった。

なんでまた渋谷陽一がこんな曲を紹介したのか謎だが、聴いた人はみな衝撃を受ける曲なのは間違いない。

私も腰抜かして、翌日レコードを買いに行きましたよ。

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03. Ondas (Na óhlos de Petronila) 「波浪(ペトロニラの中心で)」

PetronilaはUSA Texas州にそういう町があり、海から2kmほどのところにあるが、そこのことなのかどうか、わからない(他にもスペイン語・ポルトガル語圏のあちこちにある)。Petrolinaならば、Brazilの海沿いの町なんだけどなあ・・・。

congaとtablaのソロ(多重録音)に、Nanaの声とシンフォニーがかぶさる。この曲が一番Nanaとシンフォニーが融合してるかな(他はミスマッチの域を出ていない)。

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04. Cego Aderaldo 「盲人アデラルド」

この曲はシンフォニーではなく、Egberto Gismontiのギターとのデュオになる。作曲はGismonti。

盲人アデラルドというのは、Brazilの詩人(+弾き語り?)Aderaldo Ferreira de Araújo(1878~1967)のこと。Brazilでは有名らしい。

主役はGismontiのアコースティック・ギター。これにやはりNanaのcongaとtablaがからむ。サビのパッセージが美しい。

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05. Dado 「所与」

これはNanaのberimbauソロ。「所与」は論理学や哲学の用語なんだが、Nanaがつけたタイトルとは思えない。

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全部聴くと、結構冗長に感じるかもしれないが、Vozesだけでも一度聴いてほしい。ECMのクリアな音質で聴くberimbauの生々しい音も聴きどころだ。

1970年代後半~1980年代前半、ECMはこういう(いわゆるクロスオーバー/フュージョンではない)クラシック+Jazz/ブラック・ミュージックのフュージョン・ミュージックをたくさん作っていて面白かったな。

CODONAもECMらしい変な音楽だったなあ。過去3枚のBoxセットも出ているようだし、CODONAも一度紹介したいところ。