2017年8月18日金曜日

レコード・コレクターズ2017年9月号 特集 ドナルド・フェイゲン

2017年9月、Donald Fagenが単独で来日するのを記念して、レコード・コレクターズが特集。


表紙デザイン : 菅谷晋一(epok corp.)

うっすら光沢をかけて「Donald Fagen  The Nightfly」と入っているのだが、かすかに見えるかな?いいデザインです。

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特集の収録記事をリストアップしておこう。

37-94 特集 ドナルド・フェイゲン

(1) 38-43 真保安一郎・著+提供, 目黒研+吉田一廣・提供/『ナイトフライ』関連のアルバム/シングル
(2) 44-45 近藤正義/フェイゲンがニュー・バンドを従えヘッドライナーとして来日 Blue Noteジャズフェスティバルin JAPAN 2017
(3) 46-54 冨田恵一・談, 池上尚志・聞き手/冨田恵一(冨田ラボ)インタビュー 『ナイトフライ』には、80年代の音楽からさらに先に行ったような質感も感じられましたね
(4) 55-55 立川芳雄/『ヒップの極意』 自伝であると同時に音楽批評でもあるフェイゲンによるエッセイ集
(5) 56-59 サエキけんぞう/『ナイトフライ』考察 82年というテクノロジー変貌期を基点に"過去"と"未来"を包摂した高品質音楽
(6) 60-65 宮子和眞/ジャズやR&Bへの愛を独自に昇華する当代きっての録音芸術家 80年代スティーリー・ダン休止以降のソロ時代のキャリアを概観する
(7) 66-66 宮子和眞/デュークス・オブ・セプテンバー マイケル・マクドナルド、ボズ・スキャッグスとの超豪華ユニットによる貴重なライブ
(8) 67-79 Donald Fagen全曲ガイド
(68-73 松永良平/ナイトフライ)
(74-75 青山陽一/カマキリアド)
(76-77 青山陽一/モーフ・ザ・キャット)
(78-79 青山陽一/サンケン・コンドン)
(9) 80-83 目黒研/『チープ・クリスマス : ドナルド・フェイゲン・コンプリート』 ソロ音源をまとめた5枚組アンソロジーを、オリジナル・アルバム未収録音源を中心に解説
(10) 84-85 小山哲人/"レスター・ザ・ナイトフライ"のターンテーブル スタイリッシュなジャケットに込められた50年代とレコード文化への実直なオマージュ
(11) 86-94 佐藤英輔/参加ミュージシャン名鑑 近年も興味深いキャリアを持つ人が多いバックのメンバー

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中でも、いまさらAORの超名作THE NIGHTFLYに注目しているのが特長。まあ超超超名作だから、充分ありです。

私もリアルタイムでTHE NIGHTFLYに直撃を食らった世代で、これからFagen~Steely Danに入っていったのだった。

Donald Fagen/THE NIGHTFLY [Warner Bros.] pub.1982


Art Direction : George Deimerico

01. I.G.Y.
02. Green Dolphin Street
03. Ruby Baby
04. Maxine
05. New Frontier
06. The Nightfly
07. The Goodbye Look
08. Walk between Raindrops

はじめてUSAに行った時、Miami Seaquariumに行った。そこで見たシャチのショーが始まるまでにBGMで08がかかっていて、「おお!今USAにいるんだ」とえらい感動したのが忘れられない。

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・冨田恵一 (2014.8) 『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』. 291pp. ディスクユニオン/DU BOOKS, 東京.

は読んでいなかったのだが、富田氏のインタビュー(3)を読んで驚いたよ。THE NIGHTFLYのドラムが全編サンプラーだったということ。1982年ですよ。

Fagenは、とにかくきっちりした曲を作る人なのだが、正確無比なstudio musisianのリズムでさえ、その「揺れ」が許せず、ついにサンプラーでドラム・パターンを作ってしまった、というのだ。

プロでさえ長年気づかなかったのだから、私のようなシロートが気づくはずもない。ほんとビックリ。

すごくおもしろいインタビュー。

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(10)は、オーディオ・マニアが分析する「THE NIGHTFLY」ジャケット・デザイン・コンセプト。

あのターンテーブルが、放送局向け16" LP用のものだなんて、はじめて気づいた。確かに12" LPより大きい!

またそのアームはSP用のものらしく、それじゃLPはかけられない。結局のところ、あのセットは実物ではなく作り物(もしかすると写真合成)なんだって。いやあ、おもしろい。

手前のアナログ・ディスクは、

SONNY ROLLINS AND THE CONTEMPORARY LEADERS [Contemporary] rec.1958

のジャケット、というのは誰でもすぐにわかるのだが、ところが!ターンテーブルに乗っているLPのレーベルは、Riversideの黒ラベルではないか!

指摘されるまで気づきませんでした。恐るべし、オーディオ・マニア。

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Fagenの来日公演といっても、おもしろいんだろうか?

(6)で「録音芸術家」と呼ばれているように、この人はライブよりもアルバム制作で実力を発揮する人なのは、誰しも認めることだろう。

2016年5月3日火曜日 音盤テルトン(12) Marian McPartland's PIANO JAZZ : STEELY DAN

で書いたとおり、オーバーダブで声を重ねないFagenの歌を聞くのは結構つらい。一発勝負のライブ向きの人じゃない。

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また、仮に完璧なバンドメンバーを引き連れて来て、アルバムの曲がそのまま再現されているとして、それがおもしろいだろうか?

どうもその辺は、ジャズ・ファンの習性か、あまり興味が持てないところだ。

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ソロ最新作の

Donald Fagen/SUNKEN CONDOS [WEA/Reprise] pub.2012

では、あまりカッチリ作り込まず、結構ルーズな作りの曲になっていて、それまでのSteely Dan~Fagen作品とは根本的に作り方が違う。

違和感ありすぎて、あまり聴かないアルバムだ。Fagenもついに年取ったか・・・という感想。

来日公演では、おそらくこれに近いものになると推測されるが、どうなんだ、コレ。なんかあんまり楽しみじゃない・・・。

まあ、Fagenバンドが出演するBlue Noteジャズフェスティバル in JAPAN 2017は、チケットが11000~24000円と、私のお財布ではついていけない金額なんで、どっちにしろ行けませんけどね。

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・ドナルド・フェイゲン・著, 奥田祐士・訳 (2014.7) 『ヒップの極意』. 260pp. ディスクユニオン/DU BOOKS, 東京.
← 英語原版 : Donald Fagen (2013) EMINENT HIPSTERS. Viking Penguin, USA.


デザイン : 小野英作

こっちは読んだ。Fagenの初エッセイ集。

前半は、生い立ちを交えながらの音楽遍歴を語る。すごくおもしろい。デビュー前夜、大学でWalter Beckerとつるみながらの音楽活動事始めが、なかなか楽しい。青春だねえ。

後半は、最近のFagenの半分娯楽のプロジェクトDukes of Septemberによる全米ツアー旅日記。まあ、愚痴と皮肉だらけだね、このオヤジ(笑)。

思った通りの偏屈オヤジだったよ。いいぞ、Fagen!

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とにかく、今回のレコード・コレクターズの特集は名作なので、ぜひお買い逃しなきよう。

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(追記)@2017/09/14

なんと、Donald Fagen急病(たぶん精神的なものでしょ)で来日中止。

・Blue Note Jazz Festival in Japan > Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2017 (9.23 sat., 9.24 sun.) 開催中止のお知らせ(as of 2017/09/14)
http://bluenotejazzfestival.jp/

Fagenくらいになると、一人欠席でイベント全体を吹っ飛ばすくらい威力があるんだなあ。Jazz musisianでは、Miles以降そんな人はもういない。

しかし、これだけ盛り上がった上での中止、業界関係者は頭痛いだろうな。