Donald Fagenが出てきたところで、ちょうどいいので、
2017年8月18日金曜日 レコード・コレクターズ2017年9月号 特集 ドナルド・フェイゲン
2017年9月2日土曜日 THE DIG SPECIAL EDITION 「STEELY DAN」
よりも、はるか前に出ていたSteely Dan本を紹介。
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といっても、メイン・テーマはFusion~AORだが、その中でも一番力を入れているのがSteely Dan。
・真下弘孝+大西祥平+信田照之 (2001.4) 『FUSION AOR DISC GUIDE』. 237pp. 夏目書房, 東京.
ブックデザイン : 武田留美子+須田隆弘
シンコーミュージックから現在大量に出ているディスクガイド・シリーズの原型のような本だ。
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真下弘孝(1967-)という人は、この本ではじめて知った。編集者/ライター/イラストレーターということだが、これ以上よく知らない。『ドーナツの穴 食べもののかたちの秘密!?』、『不思議なかたち 食べもの編』という著書がある。
大西祥平(1971-)の方は、マンガ関係で前から知ってた。『マンガ地獄変』シリーズでよく見る名前だったが、音楽分野でもこんなマニアだったとは・・・。
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実はこの本、以前図書館で読んで知っていたんだが、売り物としてはなかなか見かけず、所有するに至らなかった。
しかし今回紹介するSteely Dan Free Talkの部分だけはコピーで持っていて、長年楽しんでいたのだった。
もっとも、それがどの本に収録されていたのか、書名を忘れていたせいもあって、たどり着くのに時間がかかってしまったが(笑)。
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本書は、全16章に分けて、AOR/Fusionの音盤を楽器別、テーマ別に紹介した本。
その中の1章がSteely Dan。
・真下弘孝+大西祥平 (2001.4) 13 STEELY DAN FREE TALK. 『FUSION AOR DISC GUIDE』所収. pp.121-168. 夏目書房, 東京.
真下、大西の二人が対談形式で、Steely Danのアルバム及びFagen、Beckerの単独アルバムを曲ごとにreviewしたもの
他の章は10ページ位のものなのに、この章だけ47ページも尺を取っている。まさに、これのために本を作ったようなものだ。
当然中身も熱い。Steely Danファンの文章として一級品だ。
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このトークの特徴は、初期のロックバンド時代にはほとんど触れず、THE ROYAL SCAM(幻想の摩天楼)(1976)以降の、Studio Work時代だけを取り上げている点。AORという視点ならそうなるでしょうね。
Reviewしている音盤は以下の通り。
121-121 13 STEELY DAN(中扉)
122-123 スタジオ・ミュージシャンを使いこなした都会の音楽集団
124-127 Steely Dan/THE ROYAL SCAM (1976)
128-132 Steely Dan/AJA (1977)
133-136 Steely Dan/GAUCHO (1980)
137-140 Donald Fagen/THE NIGHTFLY (1982)
141-144 Donald Fagen/KAMAKIRIAD (1993)
145-149 Walter Becker/11 TRACKS OF WHACK (1994)
150-153 Steely Dan/ALIVE IN AMERICA (1995)
154-158 Steely Dan/TWO AGAINST NATURE (2000)
159-167 アルバム未収録曲 その他
----------- 01 Steely Dan/Here at the Western World (1976)
----------- 02 Steely Dan/FM (1978)
----------- 03 Steely Dan/Second Arrangement (1980)
----------- 04 Donald Fagen/True Companion (1981)
----------- 05 David Sanborn/The Finer Things (1982)
----------- 06 Donald Fagen+Steve Kahn/Reflections (1984)
----------- 07 Donald Fagen/Big Noise,New York (1985)
----------- 08 Donald Fagen/Century's End (1988)
----------- 09 Donald Fagen/Shanghai Confidential (1988)
----------- THE NEW YORK ROCK AND SOUL REVUE(1991)
----------- 10 Donald Fagen/Confide in Me (1993)
----------- 11 Steely Dan/Fall of 92 (1993)
----------- 12 Steely Dan/Wet Side Story (1996)
この他、囲みコラムで
131-131 Woody Herman/CHICK, DONALD, WALTER & WOODROW (1978) → Woody HermanがChick CoreaやSteely Danなどの曲を取り上げた意欲作
168-168 ME, MYSELF & IRENE (2000) → 映画音楽であり、Steely Danカバー集
にも触れている。
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同書, pp.144-145
Steely Dan、Fagenだけじゃなくて、Walter Beckerのアルバムもちゃんと取り上げているのがエライですよね。
最初に上げた雑誌特集もいいけど、こういう気取らない雑談風での、ファンが好き勝手語る形式も楽しい。何よりも熱気を感じるのがいい。
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出版が2001年なので、当時の最新作TWO AGAINST NATUREまでだが、その後の
Steely Dan/EVERYTHING MUST GO (2003)、
MARIAN McPARTLAND'S PIANO JAZZ WITH GUEST STEELY DAN (2005)
Donald Fagen/MORPH THE CAT (2006)
Walter Becker/CIRCUS MONEY (2008)
Donald Fagen/SUNKEN CONDOS (2012)
もフォローしての増補版を読んでみたいなあ。
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せっかく盛り上がったSteely Danブームは、Becker死去とFagen来日中止で表面的には雲散霧消してしまったわけだが、評伝
・ブライアン・スウィート・著, 奥田祐士・訳 (2017.11) 『スティーリー・ダン・ストーリー リーリン・イン・ジ・イヤーズ 完全版』. 456pp. DU Books, 東京.
も出たことだし(実はまだ買ってない)、実はブームはマニアックなファンの間に潜行しているのだ。
Steely Danブーム再び!そして、Donald Fagen来日come on!
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(追記)@2018/02/27
ちなみに、上記記事でも、前回のA New Standard by Which to Measure Infamyは取り上げられておりません。誰も知らないFagenの作品の一つ。
2018年2月27日火曜日
2018年2月25日日曜日
BURROUGHS WITH MUSIC (26) DEAD CITY RADIO-その9
引き続き
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
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いよいよDonald Fagenの登場。とはいえ、あまりFagenらしい音楽じゃないので、期待しないように。
William S. Burroughs (vo, words), Donal Fagen (music, effects)
07. A New Standard by Which to Measure Infamy
これは新作超短編の朗読。そのbackに音楽、というより効果音をつけるのは、Steely DanのDonald Fagen。
FagenがBurroughsファンなのは、そのバンド名「Steely Dan」が、Burroughsの小説THE NAKED LUNCHから取られていることからも明らか。
しかし、Fagenの音楽には、Burroughsの影響を思わせるところはない。歌詞には、「Burroughsの影響?」とも思わせる変なのもあるが。
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Somewhere in the shadow of the Titanic disaster —still living by the inexplicable grace of God— slinks a cur in human shape, to-day the most despicable human being in all the world. In that grim midnight hour, already great in history, he found himself hemmed in by the band of heroes whose watchword and countersign rang out across the deep — “Women and children first!”
What did he do? He scuttled to the stateroom deck, put on a woman’s skirt, a woman’s hat and a woman’s veil, and picking his crafty way back among the brave and chivalric men who guarded the rail of the doomed ship, he filched a seat in one of the lifeboats and saved his skin.
His identity is not yet known, though it will be in good time. So foul an act as that will out like murder.
This man still lives. Surely he was born and saved to set for men a new standard by which to measure infamy and shame.
引用元:
・EOI SABIÑÁNIGO > 4. DEPARTAMENTO DE INGLÉS > Categorías > LISTEN & READ > William S. Burroughs 1914-1997 (December 5th, 2014)
http://www.eoisabi.org/?p=6046
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これは、1912年のTitanic号沈没の際に、「救命ボートには女性・子供優先」とされていたにもかかわらず、女装してボートに乗り込み助かった、とされる男の話。
調べていくと、変な話が出てきた。
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実はこの男というのは、Titanic号唯一の日本人乗客であった鉄道官僚・細野正文(1870-1939)のことらしい。
これが事実なら全く恥ずべきことであり、実際、助かってから帰国後には、彼は大きな非難を浴び、鉄道副参事から降格されるという憂き目を見ている。
しかし、これはどうもデマと誤報による情報だったらしく、その後の調査で、細野氏の名誉は回復されている。現在は、弁解を一切しなかった細野氏への賞賛の声も聞くことができる。
上記記事では、「女装」という話は一切出てこない。おそらくデマが飛び交う過程で、誰かが盛った話が混入したものと思われる。
ちなみに、細野正文はミュージシャン細野晴臣の祖父である。
参考:
・ウィキペディア > 細野正文 (最終更新 2017年9月13日 (水) 12:05)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E9%87%8E%E6%AD%A3%E6%96%87
主要文献:
・安藤健二 (2007.3)タイタニックで助かった日本人の謎. 新潮45, vol.26, no.3, pp.98-105.
→ 増補改訂再録 : (2008.5) 10 捏造された日本人差別 タイタニック生還者が美談になるまで. 『封印されたミッキーマウス 美少女ゲームから核兵器まで抹殺された12のエピソード』所収. pp.93-123. 洋泉社, 東京.
→ 再録 : (2011.10) #04捏造された日本人差別 タイタニック生還者が美談になるまで. 『ミッキーマウスはなぜ消されたか 核兵器からタイタニックまで 封印された10のエピソード』(河出文庫)所収. pp.53-81. 河出書房新社, 東京.
・石井健 (1997.10) 日本人の「汚名」手記がそそいだ 米財団分析 タイタニック号の沈没事故 「無理やりボートに乗ってきた」 生還の細野正文さん. 産経新聞, 1997年10月29日夕刊.
・細野正文・著, 細野日出男・談, サンデー毎日編集部・編著 (1980.9) 全公開 ただ一人の日本人乗客の遭難手記 ボートニハ婦人連ヲ最優先ス、男子乗ラントスルモ、船員之ヲ拒ミ短銃ヲ擬ス (大特集 永遠のロマンと悲劇 タイタニック号). サンデー毎日, 1980年9月14日号, pp.30-34.
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ずいぶん寄り道してしまったが、Fagenがつける効果音は、そのストーリーに沿ったもの。
「グー」という船のエンジンの重低音、「ふぉー」という汽笛の音、「ギッ、ギッ」というボートのオールの音、悲鳴。Fagenらしからぬ音楽だ。最後に短いpianoのフレーズ。
まるでSF映画のsoundtrack。
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これ、Donald Fagenのdicographyでも無視されている。先日の
レコード・コレクターズ2017年9月号 特集 ドナルド・フェイゲン
でも取り上げられていなかった。「無視」と言うよりは、ほとんど誰も知らないのだな、きっと。
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(追記)@2018/02/25
・ウィリアム・バロウズ・著, 山形浩生・訳 (1998.5) 『夢の書 わが教育』. 235pp. 河出書房新社, 東京.
← 英語原版 : William S. Burroughs (1995) MY EDUCATION : A BOOK OF DREAMS. 193pp. Viking, NYC.
装幀 : 岩瀬聡
のp.15に、タイタニック号の沈没について、以下の様な記述があった。
でもイタリア人のスチュワードは女装して、最初の救命ボートにこそこそ潜り込んだ。
どうやら、Burroughsが語っていたのはこの人物のことで、細野正文氏のことではなかったようだ。
しかし、この手の話は安藤氏の著作を見てもわかるように、噂の伝播過程でどんどん混同されるものなので、機会あるごとにはっきり区別しておきたいところだ。
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
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いよいよDonald Fagenの登場。とはいえ、あまりFagenらしい音楽じゃないので、期待しないように。
William S. Burroughs (vo, words), Donal Fagen (music, effects)
07. A New Standard by Which to Measure Infamy
これは新作超短編の朗読。そのbackに音楽、というより効果音をつけるのは、Steely DanのDonald Fagen。
FagenがBurroughsファンなのは、そのバンド名「Steely Dan」が、Burroughsの小説THE NAKED LUNCHから取られていることからも明らか。
しかし、Fagenの音楽には、Burroughsの影響を思わせるところはない。歌詞には、「Burroughsの影響?」とも思わせる変なのもあるが。
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Somewhere in the shadow of the Titanic disaster —still living by the inexplicable grace of God— slinks a cur in human shape, to-day the most despicable human being in all the world. In that grim midnight hour, already great in history, he found himself hemmed in by the band of heroes whose watchword and countersign rang out across the deep — “Women and children first!”
What did he do? He scuttled to the stateroom deck, put on a woman’s skirt, a woman’s hat and a woman’s veil, and picking his crafty way back among the brave and chivalric men who guarded the rail of the doomed ship, he filched a seat in one of the lifeboats and saved his skin.
His identity is not yet known, though it will be in good time. So foul an act as that will out like murder.
This man still lives. Surely he was born and saved to set for men a new standard by which to measure infamy and shame.
引用元:
・EOI SABIÑÁNIGO > 4. DEPARTAMENTO DE INGLÉS > Categorías > LISTEN & READ > William S. Burroughs 1914-1997 (December 5th, 2014)
http://www.eoisabi.org/?p=6046
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これは、1912年のTitanic号沈没の際に、「救命ボートには女性・子供優先」とされていたにもかかわらず、女装してボートに乗り込み助かった、とされる男の話。
調べていくと、変な話が出てきた。
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実はこの男というのは、Titanic号唯一の日本人乗客であった鉄道官僚・細野正文(1870-1939)のことらしい。
これが事実なら全く恥ずべきことであり、実際、助かってから帰国後には、彼は大きな非難を浴び、鉄道副参事から降格されるという憂き目を見ている。
しかし、これはどうもデマと誤報による情報だったらしく、その後の調査で、細野氏の名誉は回復されている。現在は、弁解を一切しなかった細野氏への賞賛の声も聞くことができる。
上記記事では、「女装」という話は一切出てこない。おそらくデマが飛び交う過程で、誰かが盛った話が混入したものと思われる。
ちなみに、細野正文はミュージシャン細野晴臣の祖父である。
参考:
・ウィキペディア > 細野正文 (最終更新 2017年9月13日 (水) 12:05)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%B0%E9%87%8E%E6%AD%A3%E6%96%87
主要文献:
・安藤健二 (2007.3)タイタニックで助かった日本人の謎. 新潮45, vol.26, no.3, pp.98-105.
→ 増補改訂再録 : (2008.5) 10 捏造された日本人差別 タイタニック生還者が美談になるまで. 『封印されたミッキーマウス 美少女ゲームから核兵器まで抹殺された12のエピソード』所収. pp.93-123. 洋泉社, 東京.
→ 再録 : (2011.10) #04捏造された日本人差別 タイタニック生還者が美談になるまで. 『ミッキーマウスはなぜ消されたか 核兵器からタイタニックまで 封印された10のエピソード』(河出文庫)所収. pp.53-81. 河出書房新社, 東京.
・石井健 (1997.10) 日本人の「汚名」手記がそそいだ 米財団分析 タイタニック号の沈没事故 「無理やりボートに乗ってきた」 生還の細野正文さん. 産経新聞, 1997年10月29日夕刊.
・細野正文・著, 細野日出男・談, サンデー毎日編集部・編著 (1980.9) 全公開 ただ一人の日本人乗客の遭難手記 ボートニハ婦人連ヲ最優先ス、男子乗ラントスルモ、船員之ヲ拒ミ短銃ヲ擬ス (大特集 永遠のロマンと悲劇 タイタニック号). サンデー毎日, 1980年9月14日号, pp.30-34.
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ずいぶん寄り道してしまったが、Fagenがつける効果音は、そのストーリーに沿ったもの。
「グー」という船のエンジンの重低音、「ふぉー」という汽笛の音、「ギッ、ギッ」というボートのオールの音、悲鳴。Fagenらしからぬ音楽だ。最後に短いpianoのフレーズ。
まるでSF映画のsoundtrack。
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これ、Donald Fagenのdicographyでも無視されている。先日の
レコード・コレクターズ2017年9月号 特集 ドナルド・フェイゲン
でも取り上げられていなかった。「無視」と言うよりは、ほとんど誰も知らないのだな、きっと。
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(追記)@2018/02/25
・ウィリアム・バロウズ・著, 山形浩生・訳 (1998.5) 『夢の書 わが教育』. 235pp. 河出書房新社, 東京.
← 英語原版 : William S. Burroughs (1995) MY EDUCATION : A BOOK OF DREAMS. 193pp. Viking, NYC.
装幀 : 岩瀬聡
のp.15に、タイタニック号の沈没について、以下の様な記述があった。
でもイタリア人のスチュワードは女装して、最初の救命ボートにこそこそ潜り込んだ。
どうやら、Burroughsが語っていたのはこの人物のことで、細野正文氏のことではなかったようだ。
しかし、この手の話は安藤氏の著作を見てもわかるように、噂の伝播過程でどんどん混同されるものなので、機会あるごとにはっきり区別しておきたいところだ。
2018年2月22日木曜日
BURROUGHS WITH MUSIC (25) DEAD CITY RADIO-その8
引き続き
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
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William S. Burroughs (vo, words), NBC Symhony Orch, Buryl Red (comp)
06. Kill the Badger !
のどかなfrench hornとfluteに乗って、超短編の朗読。
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At Los Alamos Ranch School, where they later made the atom bomb and couldn’t wait to drop it on the Yellow Peril, the boys are sitting on logs and rocks, eating some sort of food. There is a stream at the end of a slope. The counselor was a Southerner with a politician’s look about him. He told us stories by the campfire, culled from the racist garbage of the insidious Sax Rohmer – East is evil, West is good.
Suddenly, a badger erupts among the boys – don’t know why he did it, just playful, friendly and inexperienced like the Aztec Indians who brought fruit down to the Spanish and got their hands cut off. So the counselor rushes for his saddlebag and gets out his 1911 Colt .45 auto and starts blasting at the badger, missing it with every shot at six feet. Finally he puts his gun three inches from the badger’s side and shoots. This time the badger rolls down the slope into the stream. I can see the stricken animal, the sad shrinking face, rolling down the slope, bleeding, dying.
“You see an animal, you kill it, don’t you? It might have bitten one of the boys.”
The badger just wanted to romp and play, and he gets shot with a .45 government issue. Contact that. Identify with that. Feel that. And ask yourself, whose life is worth more? The badger, or this evil piece of white shit?
Brion Gysin said "A man is a bad animal".
from William S. Burroughs (1992) THE CAT INSIDE. Viking, NYC.
引用元:
・the velvet rocket > ARCHIVES > September 2008 > ART : Justin Ames/"Kill the Badger!" (An excerpt from William S. Burroughs’ novella The Cat Inside) (September 13, 2008)
https://thevelvetrocket.com/2008/09/13/uncharted-territories/
ロス・アラモス牧場学校で、少年たちが丸太や岩にすわって何か食糧を食べている。ここは後に、原子爆弾が作られたところで、作ったがはやいかそれをさっさと黄色人種に落としてしまった。坂の向こうには小川がある。指導者は南部人で、政治家のような雰囲気を漂わせていた。キャンプ・ファイヤーを囲んで物語を話す。詐欺師サックス・ローマーの人種差別的ゴミ小説から選んできた話。東洋は悪、西洋は善。
いきなりアナグマが少年たちの方に突進してきた。理由はわからない。ふざけ好きで、友好的で世間知らず。果物をスペイン人に持っていったら、手を切り落とされたアステカ・インディアンと同じ。指導者は急いで鞍袋を取り、1911年製コルト0.45口径自動拳銃を出して、アナグマめがけてぶっぱなした。2メートルの距離から撃った弾は、全部はずれ。ついに、アナグマの横8センチまで銃を近づけて撃った。今度こそアナグマは坂をころがって、小川に落ちた。撃たれた動物、その悲しみで縮みあがった顔が、坂をころがり、血を流し、死ぬのが見えた。
「動物を見かけたら、殺さないとな。そうだろ? だれかにかみつくかもしれない」
アナグマははしゃいで遊びたかっただけなのに、政府支給の0.45口径で撃たれた。さわってみろ。そいつの身になってみろ。感じてみろ。そして考えてみよう。どっちの命が価値のあるものか。アナグマか、あるいはこの邪悪な白人野郎か。
ブライオン・ガイシンの言う通り、「人間は悪い動物だよ!」
from ウィリアム・バロウズ・著, 山形浩生・訳 (1994.10) 『内なるネコ』, pp.18-19. 河出書房新社, 東京.
装幀 : 村上光延
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晩年の作品なので、内容、文体とも往時の切れ味はない。
人間の残酷さと命の尊さを語っているようにも思えるが、Burroughsがそんなストレートな話するわけない。
これはどうも、「この粗野な指導者が心底嫌い」ということを少し遠回りに語っているのだろう。
Burroughsは麻薬の売人などにも手を染めてはいるが、悪事(とは思っていないだろうけど)を働くにしても一貫してクール。こういうこれみよがしな暴力は最も嫌うところだ。
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
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William S. Burroughs (vo, words), NBC Symhony Orch, Buryl Red (comp)
06. Kill the Badger !
のどかなfrench hornとfluteに乗って、超短編の朗読。
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At Los Alamos Ranch School, where they later made the atom bomb and couldn’t wait to drop it on the Yellow Peril, the boys are sitting on logs and rocks, eating some sort of food. There is a stream at the end of a slope. The counselor was a Southerner with a politician’s look about him. He told us stories by the campfire, culled from the racist garbage of the insidious Sax Rohmer – East is evil, West is good.
Suddenly, a badger erupts among the boys – don’t know why he did it, just playful, friendly and inexperienced like the Aztec Indians who brought fruit down to the Spanish and got their hands cut off. So the counselor rushes for his saddlebag and gets out his 1911 Colt .45 auto and starts blasting at the badger, missing it with every shot at six feet. Finally he puts his gun three inches from the badger’s side and shoots. This time the badger rolls down the slope into the stream. I can see the stricken animal, the sad shrinking face, rolling down the slope, bleeding, dying.
“You see an animal, you kill it, don’t you? It might have bitten one of the boys.”
The badger just wanted to romp and play, and he gets shot with a .45 government issue. Contact that. Identify with that. Feel that. And ask yourself, whose life is worth more? The badger, or this evil piece of white shit?
Brion Gysin said "A man is a bad animal".
from William S. Burroughs (1992) THE CAT INSIDE. Viking, NYC.
引用元:
・the velvet rocket > ARCHIVES > September 2008 > ART : Justin Ames/"Kill the Badger!" (An excerpt from William S. Burroughs’ novella The Cat Inside) (September 13, 2008)
https://thevelvetrocket.com/2008/09/13/uncharted-territories/
ロス・アラモス牧場学校で、少年たちが丸太や岩にすわって何か食糧を食べている。ここは後に、原子爆弾が作られたところで、作ったがはやいかそれをさっさと黄色人種に落としてしまった。坂の向こうには小川がある。指導者は南部人で、政治家のような雰囲気を漂わせていた。キャンプ・ファイヤーを囲んで物語を話す。詐欺師サックス・ローマーの人種差別的ゴミ小説から選んできた話。東洋は悪、西洋は善。
いきなりアナグマが少年たちの方に突進してきた。理由はわからない。ふざけ好きで、友好的で世間知らず。果物をスペイン人に持っていったら、手を切り落とされたアステカ・インディアンと同じ。指導者は急いで鞍袋を取り、1911年製コルト0.45口径自動拳銃を出して、アナグマめがけてぶっぱなした。2メートルの距離から撃った弾は、全部はずれ。ついに、アナグマの横8センチまで銃を近づけて撃った。今度こそアナグマは坂をころがって、小川に落ちた。撃たれた動物、その悲しみで縮みあがった顔が、坂をころがり、血を流し、死ぬのが見えた。
「動物を見かけたら、殺さないとな。そうだろ? だれかにかみつくかもしれない」
アナグマははしゃいで遊びたかっただけなのに、政府支給の0.45口径で撃たれた。さわってみろ。そいつの身になってみろ。感じてみろ。そして考えてみよう。どっちの命が価値のあるものか。アナグマか、あるいはこの邪悪な白人野郎か。
ブライオン・ガイシンの言う通り、「人間は悪い動物だよ!」
from ウィリアム・バロウズ・著, 山形浩生・訳 (1994.10) 『内なるネコ』, pp.18-19. 河出書房新社, 東京.
装幀 : 村上光延
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晩年の作品なので、内容、文体とも往時の切れ味はない。
人間の残酷さと命の尊さを語っているようにも思えるが、Burroughsがそんなストレートな話するわけない。
これはどうも、「この粗野な指導者が心底嫌い」ということを少し遠回りに語っているのだろう。
Burroughsは麻薬の売人などにも手を染めてはいるが、悪事(とは思っていないだろうけど)を働くにしても一貫してクール。こういうこれみよがしな暴力は最も嫌うところだ。
2018年2月16日金曜日
BURROUGHS WITH MUSIC (24) DEAD CITY RADIO-その7
引き続き
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
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05-2. Where He Was Going
の続き。和訳。
『トルネード・アレイ』の中のこの話「最後の場所」は、ありていに言ってアーネスト・ヘミングウェイ「キリマンジャロの雪」に基づくものだ。実際、「最後の場所」など、いくつかの言葉はその小説からの引用だ。
農家の台所、窓にはブラインド、部屋の隅に立て掛けられた銃。グラスや皿が脇に押しやられ、そこに道路地図が広げられた。四人の男が地図の上に身を乗り出している。よく似た顔つきの男たちだ。灯油ランプはいまにも消えそうだ。ふるえる光が男たちの頬骨や唇を照らす。疲労と緊張の影が彼らの瞳に揺れている。
「ここが封鎖されていることは確かだ・・・それに、ここもだ」
イシュメイルは薄汚れたグラスにウイスキーをたっぷり注いだ。
「ここに隠れている方が安全じゃないのか?」
「どうかな。やつらが、おれたちをあぶり出すつもりならともかく、一軒一軒しらみつぶしにされたらおしまいだ」
「そのとおりだな」
「とにかく、ここを離れよう」
そのとき、ふと彼は思った。おれは死ぬかも知れない、と。遅かれ早かれそうなることは覚悟しているし、仲間だって同じだろう。だけど、それが今夜だとしたら---死の予感が彼の心に吹き込んでくる。ろうそくの炎を揺らす一陣の風のように。そして、恐怖だ。おぞましい死の恐怖が、下腹を蹴るように込み上げてくる。彼は少しだけ身を屈め、椅子の背にもたれかかった。
いつもこうなんだ、と彼は心の中でつぶやく。いつも恐怖からはじまる。それから、猛然と勇気が沸き起こる。そして最後には、まるで生まれ変わったような、清々しく、甘美な気持ちに包まれる。何かの本にそんなことが書いてあった。あれは何の本だったろう。古いウエスタンものだったか・・・
恐怖に耐えていられる間は、まだまだ恐怖が続くのだろう。そして、いよいよ耐えられなくなったその瞬間に、恐怖は消え---希望が生まれる。
「さあ、行こう」しわがれ声で彼は言う。
仲間も脅えているのだろうか、と彼は考えてみる。おれと同じように---手の中の銃はぎこちなく、ずしりと重い。なじまない悪意の塊のようだ---
もちろん、そうだろう。だけど、そんなことを口に出すべきではない。撃鉄と銃尾がカチリと鳴る。
クルマに乗り込んで、ドアを閉める。彼は右側のドアの横に座っている。道は悪く、穴ぼこや轍の跡が水たまりになっている。
ぬかるみにはまり込んだらおしまいだ。二度と抜け出せない。クルマは森の中を慎重に進んだ。いまごろ、このあたりを警察犬が嗅ぎ回っているはずだ。
「止めろ! ライトを消せ!」
バスン、バスンという音を響かせて、向こうからクルマが近づいてくる。狭い道の角にヘッドライトが光り、茂った樹樹の間を照らした。
イシュメイルはゆっくりとクルマを降りた。足が棒のように感じられる。道の真ん中に立って、両手を上げる。
咳き込むような音を立てて、おんぼろのクルマが止まる。運転しているのは白髪の老人だ。
イシュメイルはゆっくりとクルマに近づくと、老人に紙入れを示した。
「FBIだ」
唇がかじかんでいる。紙入れについているバッジは、質屋のバッジなんかじゃない。精巧な偽造バッジで、どう見ても本物にしか見えない。中には偽の名刺が入っている。トロントの偽造職人の手によるもので、一五〇ドルもとられた。おかげで、これまで何度も危ない状況を切り抜けることができたのだ。
老人はぽかんとした顔でクルマの中に座っている。
「我々は銀行強盗の一味を探している。この辺りにひそんでいるはずだ。ここに住んで長いのかね?」
「四十年でさ」
「それなら、このあたりには詳しいな」
彼は道路地図を取り出す。
「いいか、我々が封鎖しているのは、こことここ、それからここだ。他にやつらが脱出できそうな道があるか?」
「そうそう、昔の荷馬車道がすぐそこにあったな。荒れてはいるが、通れんこともないだろう。州道に出る脇道なんだが、きっと連中は、まんまとそこから逃げおおせるに違いない」
「もしその通りだったら、報奨金ものだな。五〇〇ドルがあんたの手に入る」イシュメイルは老人に名刺を渡した。「タルサの警察署まで電話してくれ」
「そうさせてもらうよ。必ず連絡させてもらうよ」老人はクルマを進める。
ダッシュボードのライトの下で運転手が地図を調べている。
「地図によるとその脇道まで、正確に五マイルと十分の三だ」
老人が電話口で。「そうです。Gメンを装っている連中です」
イシュメイルはベンウェイ医師の言葉を思い出す。「いつも死と向き合っている人間は、死に直面している限り、不死身でいられる」
アライグマが道を横切った。ヘッドライトに照らされて、その目は明るい緑色に輝いている。あわてて逃げる様子でもなく、すべるようにクルマの前を横切っていく。突然、不吉な匂いが鼻先をかすめ、抑えようのない虚無感に襲われた。アライグマは軽やかな足取りで向こう側へ走り抜けていく。
「メキシコへ逃げるんだ・・・おれはそこにいたことがある・・・生き残るための唯一の方法・・・ベルトに五〇〇ドルを押し込んで・・・メキシコへの遠い道程を・・・」
恐怖が戻ってきた。絞り出されるように、恐怖が胸に込み上げてくる。手に持った銃はずっしりと重く、もはや持ち上げることさえできない。不安がじりじりと押し寄せてきて、身体中の力が抜けていく。
角を曲がる。ライトが目に突き刺さる。白い閃光を浴びて、何もわからなくなる。おれは、じゆうううだ。ドアを開け放ち、外に飛び出す。フロントガラスが破裂。黄色い破片がきらめいている。トムが両手で顔を覆う。
やけに身体が軽かった。手に持った軽機関銃も嘘みたいに軽い。まるで夢の中にいるようだ。いかにも誠実そうな若い警官---おまけに信仰心も厚いクソガキだ---が飛び出してきて、ライフルを向ける。
彼はまだ人間を撃ったことがなかった。
「動物なんだ!」仲間の警官が言う。「やつらを人間だと思うな! それを忘れるな」
「武器を捨てろ!」保安官代理が怒鳴る。
イシュメイルは引き金を弾いた。
若い警官の痩せた胸に、四十五口径の弾丸が三発。一インチずつ離れたところに撃ち込まれる。まさに、名人芸だった。
「楽器みたいなものだよ」かつてマシンガン・ケリーが彼にそう言った。「演奏するんだ!」
イシュメイルはクルマの中でうとうととしていたに違いない。別の撃ち合いの夢を見た。クルマは一晩中走り続け、いまは無事に帰途につき、谷間へと向かっている。もう何の心配もなかった。暖かい風が吹き抜け、水の匂いがする。
「トマスとチャーリー」
「なんだって?」
「この街の名前だよ」
そうだ、トマスとチャーリーだ。ここから一万フィートも上ると街へと続く道に出る。懐かしのメキシコ・シティ。初めて吸ったマリファナ。すっかりいい気持ちになって、ニニョ・ベルディドまでふらふら歩いた。いたるところに砂糖のしゃれこうべと花火が見えた。少年がしゃれこうべをしゃぶっている。
「死者の日だよ」
そう言って少年のひとりが笑う。白い歯に赤いガム。真っ白。真っ赤。生命より白く、生命より赤い。なぜいけない? 彼は自問した。おれがそれをおぼえたのは、感化院でだった。
少年は耳の後ろにくちなしの花をつけている。しみひとつない真っ白な綿のシャツに、足首までのズボンとサンダル。バニラの匂いがする。感化院にいたとき、イシュメイルはよくバニラを飲んだ。少年にはわかっている。彼は行くべき場所を知っている。ふたりは立ち止まって、花火を見つめた。ふたつのねずみ花火がそれぞれ逆方向に回転している・・・そのときイシュメイルは、高速エレベータに乗っているような、居心地の悪い浮遊感を味わったのを覚えている。
少年は笑っている。笑いながら、ふたつのねずみ花火の間にできた暗黒の空間を指差している。ねずみ花火はぱちぱちはじけながら回転する。やがて暗黒はひろがり、全世界を覆い尽くす。そのとき、彼は悟った。おれが行こうとしていたのはあそこなのだ、と。
イシュメイルは、担架の上で息絶えた。
from ウイリアム・S・バロウズ・著, 清水アリカ・訳 (1992.6) 最後の場所. 『トルネイド・アレイ』所収. pp.53-62. 思潮社, 東京.
→ 再録 : (1992.8) 『バロウズ・ブック』(現代詩手帖特別版)所収. pp.144-147. 思潮社, 東京.
(赤字は朗読での付加)
装画 : 大竹伸朗, デザイン : 大久保學
------------------------------------------
という、意外にストレートにハードボイルドなストーリー。確かにHemingwayの短編小説
・Ernest Hemingway (1936) The Snows of Kilimanjaro.
同様、男が死の直前に美しい想い出の夢を見る。うまく切り抜けたと思わせておいての、急転直下の結末が見事。
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
------------------------------------------
05-2. Where He Was Going
の続き。和訳。
『トルネード・アレイ』の中のこの話「最後の場所」は、ありていに言ってアーネスト・ヘミングウェイ「キリマンジャロの雪」に基づくものだ。実際、「最後の場所」など、いくつかの言葉はその小説からの引用だ。
農家の台所、窓にはブラインド、部屋の隅に立て掛けられた銃。グラスや皿が脇に押しやられ、そこに道路地図が広げられた。四人の男が地図の上に身を乗り出している。よく似た顔つきの男たちだ。灯油ランプはいまにも消えそうだ。ふるえる光が男たちの頬骨や唇を照らす。疲労と緊張の影が彼らの瞳に揺れている。
「ここが封鎖されていることは確かだ・・・それに、ここもだ」
イシュメイルは薄汚れたグラスにウイスキーをたっぷり注いだ。
「ここに隠れている方が安全じゃないのか?」
「どうかな。やつらが、おれたちをあぶり出すつもりならともかく、一軒一軒しらみつぶしにされたらおしまいだ」
「そのとおりだな」
「とにかく、ここを離れよう」
そのとき、ふと彼は思った。おれは死ぬかも知れない、と。遅かれ早かれそうなることは覚悟しているし、仲間だって同じだろう。だけど、それが今夜だとしたら---死の予感が彼の心に吹き込んでくる。ろうそくの炎を揺らす一陣の風のように。そして、恐怖だ。おぞましい死の恐怖が、下腹を蹴るように込み上げてくる。彼は少しだけ身を屈め、椅子の背にもたれかかった。
いつもこうなんだ、と彼は心の中でつぶやく。いつも恐怖からはじまる。それから、猛然と勇気が沸き起こる。そして最後には、まるで生まれ変わったような、清々しく、甘美な気持ちに包まれる。何かの本にそんなことが書いてあった。あれは何の本だったろう。古いウエスタンものだったか・・・
恐怖に耐えていられる間は、まだまだ恐怖が続くのだろう。そして、いよいよ耐えられなくなったその瞬間に、恐怖は消え---希望が生まれる。
「さあ、行こう」しわがれ声で彼は言う。
仲間も脅えているのだろうか、と彼は考えてみる。おれと同じように---手の中の銃はぎこちなく、ずしりと重い。なじまない悪意の塊のようだ---
もちろん、そうだろう。だけど、そんなことを口に出すべきではない。撃鉄と銃尾がカチリと鳴る。
クルマに乗り込んで、ドアを閉める。彼は右側のドアの横に座っている。道は悪く、穴ぼこや轍の跡が水たまりになっている。
ぬかるみにはまり込んだらおしまいだ。二度と抜け出せない。クルマは森の中を慎重に進んだ。いまごろ、このあたりを警察犬が嗅ぎ回っているはずだ。
「止めろ! ライトを消せ!」
バスン、バスンという音を響かせて、向こうからクルマが近づいてくる。狭い道の角にヘッドライトが光り、茂った樹樹の間を照らした。
イシュメイルはゆっくりとクルマを降りた。足が棒のように感じられる。道の真ん中に立って、両手を上げる。
咳き込むような音を立てて、おんぼろのクルマが止まる。運転しているのは白髪の老人だ。
イシュメイルはゆっくりとクルマに近づくと、老人に紙入れを示した。
「FBIだ」
唇がかじかんでいる。紙入れについているバッジは、質屋のバッジなんかじゃない。精巧な偽造バッジで、どう見ても本物にしか見えない。中には偽の名刺が入っている。トロントの偽造職人の手によるもので、一五〇ドルもとられた。おかげで、これまで何度も危ない状況を切り抜けることができたのだ。
老人はぽかんとした顔でクルマの中に座っている。
「我々は銀行強盗の一味を探している。この辺りにひそんでいるはずだ。ここに住んで長いのかね?」
「四十年でさ」
「それなら、このあたりには詳しいな」
彼は道路地図を取り出す。
「いいか、我々が封鎖しているのは、こことここ、それからここだ。他にやつらが脱出できそうな道があるか?」
「そうそう、昔の荷馬車道がすぐそこにあったな。荒れてはいるが、通れんこともないだろう。州道に出る脇道なんだが、きっと連中は、まんまとそこから逃げおおせるに違いない」
「もしその通りだったら、報奨金ものだな。五〇〇ドルがあんたの手に入る」イシュメイルは老人に名刺を渡した。「タルサの警察署まで電話してくれ」
「そうさせてもらうよ。必ず連絡させてもらうよ」老人はクルマを進める。
ダッシュボードのライトの下で運転手が地図を調べている。
「地図によるとその脇道まで、正確に五マイルと十分の三だ」
老人が電話口で。「そうです。Gメンを装っている連中です」
イシュメイルはベンウェイ医師の言葉を思い出す。「いつも死と向き合っている人間は、死に直面している限り、不死身でいられる」
アライグマが道を横切った。ヘッドライトに照らされて、その目は明るい緑色に輝いている。あわてて逃げる様子でもなく、すべるようにクルマの前を横切っていく。突然、不吉な匂いが鼻先をかすめ、抑えようのない虚無感に襲われた。アライグマは軽やかな足取りで向こう側へ走り抜けていく。
「メキシコへ逃げるんだ・・・おれはそこにいたことがある・・・生き残るための唯一の方法・・・ベルトに五〇〇ドルを押し込んで・・・メキシコへの遠い道程を・・・」
恐怖が戻ってきた。絞り出されるように、恐怖が胸に込み上げてくる。手に持った銃はずっしりと重く、もはや持ち上げることさえできない。不安がじりじりと押し寄せてきて、身体中の力が抜けていく。
角を曲がる。ライトが目に突き刺さる。白い閃光を浴びて、何もわからなくなる。おれは、じゆうううだ。ドアを開け放ち、外に飛び出す。フロントガラスが破裂。黄色い破片がきらめいている。トムが両手で顔を覆う。
やけに身体が軽かった。手に持った軽機関銃も嘘みたいに軽い。まるで夢の中にいるようだ。いかにも誠実そうな若い警官---おまけに信仰心も厚いクソガキだ---が飛び出してきて、ライフルを向ける。
彼はまだ人間を撃ったことがなかった。
「動物なんだ!」仲間の警官が言う。「やつらを人間だと思うな! それを忘れるな」
「武器を捨てろ!」保安官代理が怒鳴る。
イシュメイルは引き金を弾いた。
若い警官の痩せた胸に、四十五口径の弾丸が三発。一インチずつ離れたところに撃ち込まれる。まさに、名人芸だった。
「楽器みたいなものだよ」かつてマシンガン・ケリーが彼にそう言った。「演奏するんだ!」
イシュメイルはクルマの中でうとうととしていたに違いない。別の撃ち合いの夢を見た。クルマは一晩中走り続け、いまは無事に帰途につき、谷間へと向かっている。もう何の心配もなかった。暖かい風が吹き抜け、水の匂いがする。
「トマスとチャーリー」
「なんだって?」
「この街の名前だよ」
そうだ、トマスとチャーリーだ。ここから一万フィートも上ると街へと続く道に出る。懐かしのメキシコ・シティ。初めて吸ったマリファナ。すっかりいい気持ちになって、ニニョ・ベルディドまでふらふら歩いた。いたるところに砂糖のしゃれこうべと花火が見えた。少年がしゃれこうべをしゃぶっている。
「死者の日だよ」
そう言って少年のひとりが笑う。白い歯に赤いガム。真っ白。真っ赤。生命より白く、生命より赤い。なぜいけない? 彼は自問した。おれがそれをおぼえたのは、感化院でだった。
少年は耳の後ろにくちなしの花をつけている。しみひとつない真っ白な綿のシャツに、足首までのズボンとサンダル。バニラの匂いがする。感化院にいたとき、イシュメイルはよくバニラを飲んだ。少年にはわかっている。彼は行くべき場所を知っている。ふたりは立ち止まって、花火を見つめた。ふたつのねずみ花火がそれぞれ逆方向に回転している・・・そのときイシュメイルは、高速エレベータに乗っているような、居心地の悪い浮遊感を味わったのを覚えている。
少年は笑っている。笑いながら、ふたつのねずみ花火の間にできた暗黒の空間を指差している。ねずみ花火はぱちぱちはじけながら回転する。やがて暗黒はひろがり、全世界を覆い尽くす。そのとき、彼は悟った。おれが行こうとしていたのはあそこなのだ、と。
イシュメイルは、担架の上で息絶えた。
from ウイリアム・S・バロウズ・著, 清水アリカ・訳 (1992.6) 最後の場所. 『トルネイド・アレイ』所収. pp.53-62. 思潮社, 東京.
→ 再録 : (1992.8) 『バロウズ・ブック』(現代詩手帖特別版)所収. pp.144-147. 思潮社, 東京.
(赤字は朗読での付加)
装画 : 大竹伸朗, デザイン : 大久保學
という、意外にストレートにハードボイルドなストーリー。確かにHemingwayの短編小説
・Ernest Hemingway (1936) The Snows of Kilimanjaro.
同様、男が死の直前に美しい想い出の夢を見る。うまく切り抜けたと思わせておいての、急転直下の結末が見事。
2018年2月13日火曜日
BURROUGHS WITH MUSIC (23) DEAD CITY RADIO-その6
引き続き
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
------------------------------------------
これに続いて、自分の小説の朗読に入る。短編小説が丸ごとだ。
William S. Burroughs (vo, words), Cheryl Hardwick (org)
05-2. Where He Was Going
効果音も入り、ドラマ仕立て。Hal Willnerの構成力の聴かせどころだ。
節目節目にpipe organによるbreakが入る。一聴して宗教音楽っぽいので、何か崇高な話をしているのでは?と思うかもしれないが、実はろくな話ではない(笑)。
------------------------------------------
This story from TORNADO ALLEY ; "Where He Was Going" is quite frankly based on "The Snows of Kilimanjaro" by Ernest Hemingway. In fact several quotations like "Where He Was Going " are his quotations.
Farm kitchen, blinds drawn, guns propped in corners. Plates and glasses have been shoved aside to make room for road maps. Four men lean over the maps. There's a basic sameness in the faces. Kerosene lamps cast a flickering light of death on cheekbones and lips on the tired, alert eyes.
"Sure to have roadblocks here and here."
Ishmael pours a generous portion of whiskey into a dirty glass.
"Couldn't we just hole up here?"
"Uh-uh. If they don't rumble us moving out, they will close in for a house-to-house search."
"Makes sense."
"Let's try it here."
And suddenly it occurred to him that he was going to die, not sooner or later, he knew that of course, they all did, but tonight. It came in a puff, the wind that makes a candle flicker, the sick hollow fear hit him like a kick in the stomach. He doubled slightly forward, supporting himself on the back of a chair.
It's always like this, he tells himself, the fear, and then the rush of courage and a clean sweet feeling of being born. He read that somewhere in an old Western.
But the fear can go on and on until you can't stand it. It's going to break you, and that's when the fear breaks... he hopes.
"Let's go," he croaks.
He wonders if they're all as scared as he is. His gun seems clumsy and heavy in his hands, alien, malignant.
Sure they are but they don't talk about it. Click of hammers and breeches.
They're in the car now, shutting the door. He is sitting by the car door on the right side. The road is full of holes, and water in the holes in deep ruts.
Please G-d we don't get stuck: seeing themselves stumbling around in the woods with the bloodhounds closing in.
"Stop! Douse the light!" ... Chug-chug.
Another car coming this way, closer. The light coming around the corner of a narrow road between heavy timber.
Ishmael gets out slow, his feet like blocks of wood, and stands in the middle of the road, his hands up.
The old car sputters to a stop. Old gray man behind the wheel.
Ishmael walks over slow and shows the old man the wallet.
"FBI!"
Ishmael's lips are numb. This is no pawnshop badge: it's a perfect replica of the real thing, with cards to go with it. Made up by a forger in Toronto. Cost a hundred and fifty dollars. Flashed him out of some tight spots.
The old man sits there with his face blank.
"We're looking for some bank robbers holed up around here. You live here long?"
"Forty years."
"Must know the area."
He brings out a road map.
"Now we've got roadblocks up here and here and here. Is there any other way they could get out?"
"Yep. Old wagon road, cuts in right here. Bit rough, but they can make it. Comes out on County Road 52. Yep, they could get clean away."
"If your information checks out, you'll be eligible for a reward of five hundred dollars." He hands the old man a card. "Just call the FBI office in Tulsa."
"I'll do that. I surely will." The old man drives on.
The driver studies the map under the dashboard lights.
"Make it exactly five and three-tenths to the turnoff."
Old man on the phone. "That's right, posing as a G-man."
Ishmael remembers old Doc Benway saying, "You face death all the time, and for that time you are immortal."
The raccoon crosses the road, its eyes bright green in the headlights, not hurrying, slipping along, and it came with a rush, a sudden evil-smelling emptiness. And the raccoon was slipping lightly along the edges.
"Get away to Mexico. I've been there. Only way to live. Got five G's in a money belt. Go a long way down there."
The fear is back around his chest, like a soft vise squeezing the air out, the gun heavy in his hands: he knows he couldn't lift it. All the strength is running out of him, in waves of searing pain.
They pull around a corner and light jabs into his eyes, his brain explodes in a white flash. And he is free: throwing the door open, jumping out in the air as the windshield explodes, sending yellow shards, and Tom throws a hand in front of his face.
Very light on his feet, the tommygun light in his hands like a dream-gun, when a sincere young agent (religious son-of-a-bitch too) leaps to his feet, rifle level.
He hadn't made his dog meat yet, as they call it.
"Animals!" his fellow agents tell him, "That's what they are! Animals! And don't you forget it!"
"Get down for Christ' sakes!" bellows the DS, and Ish stitches three .45s across the boy's lean young chest an inch apart.
He has the touch.
"It's an instrument," Machine-Gun Kelly told him. "Play it."
He must have dozed off in the car. Another shootout dream. He knows they have been driving all night. Home safe now. Coming down into a valley. Warm wind and the smell of water. From here you climb ten thousand feet to the pass. Remembers Mexico City and his first reefer cigarette: went crazy on him, wonderful crazy wandering down Nio Perdido and everywhere he sees sugar skulls and fireworks, kids biting into the skulls. "Dia de los Muertos," a boy tells him and smiles, showing white teeth and red gums. Very white, very red, and whiter and redder than life. And he thought, "Why not? I done it in the Reform School."
The boy has a gardenia behind his ear. He wears a white spotless cotton shirt and pants to the ankle with sandals. He smells of vanilla. Ish used to drink it in Reform School.
The boy understands. He knows un lugar.
They stop to watch two pinwheels spinning in opposite directions. He remembers the queasy floating feeling he got watching it, like being in a fast elevator.
The boy is smiling now and pointing to the black space between the pinwheels as they sputter out. And the blackness spreads wide as all the world and then he knew that was where he was going.
Ishmael died when they picked up the stretcher.
from William S. Burroughs (1989) Where He Was Going. IN : TORNADO ALLEY. Cherry Valley, NYC.
(赤字は朗読での付加)
引用元:
・Stu News and Photos > Where He Was Going (2009/10)
http://stunewsandphotos.blogspot.jp/2009/10/where-he-was-going.html
和訳は次回。
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
------------------------------------------
これに続いて、自分の小説の朗読に入る。短編小説が丸ごとだ。
William S. Burroughs (vo, words), Cheryl Hardwick (org)
05-2. Where He Was Going
効果音も入り、ドラマ仕立て。Hal Willnerの構成力の聴かせどころだ。
節目節目にpipe organによるbreakが入る。一聴して宗教音楽っぽいので、何か崇高な話をしているのでは?と思うかもしれないが、実はろくな話ではない(笑)。
------------------------------------------
This story from TORNADO ALLEY ; "Where He Was Going" is quite frankly based on "The Snows of Kilimanjaro" by Ernest Hemingway. In fact several quotations like "Where He Was Going " are his quotations.
Farm kitchen, blinds drawn, guns propped in corners. Plates and glasses have been shoved aside to make room for road maps. Four men lean over the maps. There's a basic sameness in the faces. Kerosene lamps cast a flickering light of death on cheekbones and lips on the tired, alert eyes.
"Sure to have roadblocks here and here."
Ishmael pours a generous portion of whiskey into a dirty glass.
"Couldn't we just hole up here?"
"Uh-uh. If they don't rumble us moving out, they will close in for a house-to-house search."
"Makes sense."
"Let's try it here."
And suddenly it occurred to him that he was going to die, not sooner or later, he knew that of course, they all did, but tonight. It came in a puff, the wind that makes a candle flicker, the sick hollow fear hit him like a kick in the stomach. He doubled slightly forward, supporting himself on the back of a chair.
It's always like this, he tells himself, the fear, and then the rush of courage and a clean sweet feeling of being born. He read that somewhere in an old Western.
But the fear can go on and on until you can't stand it. It's going to break you, and that's when the fear breaks... he hopes.
"Let's go," he croaks.
He wonders if they're all as scared as he is. His gun seems clumsy and heavy in his hands, alien, malignant.
Sure they are but they don't talk about it. Click of hammers and breeches.
They're in the car now, shutting the door. He is sitting by the car door on the right side. The road is full of holes, and water in the holes in deep ruts.
Please G-d we don't get stuck: seeing themselves stumbling around in the woods with the bloodhounds closing in.
"Stop! Douse the light!" ... Chug-chug.
Another car coming this way, closer. The light coming around the corner of a narrow road between heavy timber.
Ishmael gets out slow, his feet like blocks of wood, and stands in the middle of the road, his hands up.
The old car sputters to a stop. Old gray man behind the wheel.
Ishmael walks over slow and shows the old man the wallet.
"FBI!"
Ishmael's lips are numb. This is no pawnshop badge: it's a perfect replica of the real thing, with cards to go with it. Made up by a forger in Toronto. Cost a hundred and fifty dollars. Flashed him out of some tight spots.
The old man sits there with his face blank.
"We're looking for some bank robbers holed up around here. You live here long?"
"Forty years."
"Must know the area."
He brings out a road map.
"Now we've got roadblocks up here and here and here. Is there any other way they could get out?"
"Yep. Old wagon road, cuts in right here. Bit rough, but they can make it. Comes out on County Road 52. Yep, they could get clean away."
"If your information checks out, you'll be eligible for a reward of five hundred dollars." He hands the old man a card. "Just call the FBI office in Tulsa."
"I'll do that. I surely will." The old man drives on.
The driver studies the map under the dashboard lights.
"Make it exactly five and three-tenths to the turnoff."
Old man on the phone. "That's right, posing as a G-man."
Ishmael remembers old Doc Benway saying, "You face death all the time, and for that time you are immortal."
The raccoon crosses the road, its eyes bright green in the headlights, not hurrying, slipping along, and it came with a rush, a sudden evil-smelling emptiness. And the raccoon was slipping lightly along the edges.
"Get away to Mexico. I've been there. Only way to live. Got five G's in a money belt. Go a long way down there."
The fear is back around his chest, like a soft vise squeezing the air out, the gun heavy in his hands: he knows he couldn't lift it. All the strength is running out of him, in waves of searing pain.
They pull around a corner and light jabs into his eyes, his brain explodes in a white flash. And he is free: throwing the door open, jumping out in the air as the windshield explodes, sending yellow shards, and Tom throws a hand in front of his face.
Very light on his feet, the tommygun light in his hands like a dream-gun, when a sincere young agent (religious son-of-a-bitch too) leaps to his feet, rifle level.
He hadn't made his dog meat yet, as they call it.
"Animals!" his fellow agents tell him, "That's what they are! Animals! And don't you forget it!"
"Get down for Christ' sakes!" bellows the DS, and Ish stitches three .45s across the boy's lean young chest an inch apart.
He has the touch.
"It's an instrument," Machine-Gun Kelly told him. "Play it."
He must have dozed off in the car. Another shootout dream. He knows they have been driving all night. Home safe now. Coming down into a valley. Warm wind and the smell of water. From here you climb ten thousand feet to the pass. Remembers Mexico City and his first reefer cigarette: went crazy on him, wonderful crazy wandering down Nio Perdido and everywhere he sees sugar skulls and fireworks, kids biting into the skulls. "Dia de los Muertos," a boy tells him and smiles, showing white teeth and red gums. Very white, very red, and whiter and redder than life. And he thought, "Why not? I done it in the Reform School."
The boy has a gardenia behind his ear. He wears a white spotless cotton shirt and pants to the ankle with sandals. He smells of vanilla. Ish used to drink it in Reform School.
The boy understands. He knows un lugar.
They stop to watch two pinwheels spinning in opposite directions. He remembers the queasy floating feeling he got watching it, like being in a fast elevator.
The boy is smiling now and pointing to the black space between the pinwheels as they sputter out. And the blackness spreads wide as all the world and then he knew that was where he was going.
Ishmael died when they picked up the stretcher.
from William S. Burroughs (1989) Where He Was Going. IN : TORNADO ALLEY. Cherry Valley, NYC.
(赤字は朗読での付加)
引用元:
・Stu News and Photos > Where He Was Going (2009/10)
http://stunewsandphotos.blogspot.jp/2009/10/where-he-was-going.html
和訳は次回。
2018年2月10日土曜日
BURROUGHS WITH MUSIC (22) DEAD CITY RADIO-その5
引き続き
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
------------------------------------------
William S. Burroughs (vo), NBC Symhony Orch, Frank Denning (comp)
05-1. After-dinner Conversation ("An Atrocious Conceit")
03の晩飯雑談の続き。テーマは「残酷な慈悲」について。なんだそりゃ?Burroughsだいぶ酔っ払ってる。
Hemingwayの小説からの話を引用している。バックはvib、gによる神秘的な環境音楽。
------------------------------------------
It has sameness as Ernest Hemingway.
The hole in the middle of his forehead was about the size of a pencil.
Was the bullet.
The hole in the middle of his forehead where the bullet went in was about the size of a pencil.
The hole in the back of his head where the bullet came out was big enough to put your fist in if it was a small fist and you wanted to put it there.
It's said about it. The hole in the back of his head where the bullet came out was big enough to put your fist in if it was a small fist and you wanted to put it there.
参考:
・Goon Talk > Scott Warmuth/Vive le Vol: Bob Dylan and the Importance of Being Ernest Hemingway (21st July 2013)
http://swarmuth.blogspot.jp/2013/07/vive-le-vol-bob-dylan-and-importance-of.html
・The Liberal Gun Club Forum > GlockLobster/Re: Kel-tec KSG bullpup review (Tue Apr 03, 2012 7:17 pm)
http://www.theliberalgunclub.com/phpBB3/viewtopic.php?p=129384
------------------------------------------
これはHemingwayの短編小説
Enrest Hemingway (1933) A Natural History of the Dead.
からの不正確な引用(たぶんうろ覚えのため)。原文の「指の入る」が「鉛筆の入る」になっている。
< -- omitted -- > a hole in front you couldn’t put your little finger in and a hole in back you could put your fist in, if it were a small fist and you wanted to put it there < -- omitted -- >
from Enrest Hemingway (1933) A Natural History of the Dead
引用元:
・The Teacher's Crate > ARCHIVES > March 2014 > The Complete Short Stories of Ernest Hemingway (March 1, 2014) > Ernest Hemingway (1987) THECOMPLETE SHORT STORIES OF ERNEST HEMINGWAY. THE FINCA VIGIA EDITION. 535pp. Scribner, NYC.
https://theteacherscrate.files.wordpress.com/2014/03/the-complete-short-stories-of-ernest-hemingway-ernest-hemingway.pdf
参考:
・e-notes > Study Guides > A Natural History of the Dead Summary : Ernest Hemingway > Synopsis (as of 2017/11/12)
https://www.enotes.com/topics/a-natural-history-of-the-dead
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
------------------------------------------
William S. Burroughs (vo), NBC Symhony Orch, Frank Denning (comp)
05-1. After-dinner Conversation ("An Atrocious Conceit")
03の晩飯雑談の続き。テーマは「残酷な慈悲」について。なんだそりゃ?Burroughsだいぶ酔っ払ってる。
Hemingwayの小説からの話を引用している。バックはvib、gによる神秘的な環境音楽。
------------------------------------------
It has sameness as Ernest Hemingway.
The hole in the middle of his forehead was about the size of a pencil.
Was the bullet.
The hole in the middle of his forehead where the bullet went in was about the size of a pencil.
The hole in the back of his head where the bullet came out was big enough to put your fist in if it was a small fist and you wanted to put it there.
It's said about it. The hole in the back of his head where the bullet came out was big enough to put your fist in if it was a small fist and you wanted to put it there.
参考:
・Goon Talk > Scott Warmuth/Vive le Vol: Bob Dylan and the Importance of Being Ernest Hemingway (21st July 2013)
http://swarmuth.blogspot.jp/2013/07/vive-le-vol-bob-dylan-and-importance-of.html
・The Liberal Gun Club Forum > GlockLobster/Re: Kel-tec KSG bullpup review (Tue Apr 03, 2012 7:17 pm)
http://www.theliberalgunclub.com/phpBB3/viewtopic.php?p=129384
------------------------------------------
これはHemingwayの短編小説
Enrest Hemingway (1933) A Natural History of the Dead.
からの不正確な引用(たぶんうろ覚えのため)。原文の「指の入る」が「鉛筆の入る」になっている。
< -- omitted -- > a hole in front you couldn’t put your little finger in and a hole in back you could put your fist in, if it were a small fist and you wanted to put it there < -- omitted -- >
from Enrest Hemingway (1933) A Natural History of the Dead
引用元:
・The Teacher's Crate > ARCHIVES > March 2014 > The Complete Short Stories of Ernest Hemingway (March 1, 2014) > Ernest Hemingway (1987) THECOMPLETE SHORT STORIES OF ERNEST HEMINGWAY. THE FINCA VIGIA EDITION. 535pp. Scribner, NYC.
https://theteacherscrate.files.wordpress.com/2014/03/the-complete-short-stories-of-ernest-hemingway-ernest-hemingway.pdf
参考:
・e-notes > Study Guides > A Natural History of the Dead Summary : Ernest Hemingway > Synopsis (as of 2017/11/12)
https://www.enotes.com/topics/a-natural-history-of-the-dead
2018年2月7日水曜日
BURROUGHS WITH MUSIC (21) DEAD CITY RADIO-その4
引き続き
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
------------------------------------------
William S. Burroughs (vo, words), John Cale (music, comp),
04. Ah Pook the Destroyer / Brion Gysin's All-Purpose Bedtime Story
Burroughsのわけのわからん朗読のバックには、John Cale作のお上品なstrings曲。
------------------------------------------
ここで引用するAh Pook Is Here/ア・プーク・イズ・ヒアの版は、
・William S. Burroughs (1979) Ah Pook Is Here. IN : AH POOK IS HERE AND OTHER TEXTS. 157pp. J.Calder, London.
引用元:
・OPEN CULTURE : The best free cultural & educational media on web > Archives > May 2014 > Jonathan Crow/Watch William S. Burroughs’ Ah Pook is Here as an Animated Film, with Music By John Cale(May 29th, 2014)
http://www.openculture.com/2014/05/ah-pook-is-here.html
・ウィリアム・S・バロウズ・著, 飯田隆昭・訳 (1992.8) ア・プーク・イズ・ヒア. 『ア・プーク・イズ・ヒア』所収. pp.5-86. ファラオ企画, 東京.
装幀 : 芦澤泰偉
------------------------------------------
Itzama, spirit of early mist and showers.
Ixtaub, goddess of ropes and snares.
Ixchel, the spider web, catcher of morning dew.
Zooheekock, virgin fire patroness of infants.
Adziz, the master of cold.
Kockupocket, who works in fire.
Ixtahdoom, she who spits out precious stones.
Ixchunchan, the dangerous one.
Ah Pook, the destroyer.
from Ah Pook Is Here
朝霧と驟雨の精イツァムナ
縄と罠の女神イクス・タブ
朝霧をとらえる蜘蛛の巣の精イクス・シェル
汚れなき火の神であり幼き子の保護神ズーイ・カク
冷寒の王ア・ジーズ
火中で業をなすカク・ウ・パカット
宝石を吐き出す女神イクス・タブ・タン
剣呑なる神ヘクス・チュン・チャン
破壊の神ア・プーク
form ア・プーク・イズ・ヒア, p.29
------------------------------------------
Hiroshima, 1945, August 6, sixteen minutes past 8 AM.
< -- omitted -- >
(Questiion:) Who really gave that order?
Answer: Control.
The Ugly American. The instrument of Control.
from Ah Pook Is Here
(赤字は朗読での改変)
広島・・・一九四五年・・・八月六日・・・午前八時十六分。
< -- 省略 -- >
(問い。)「誰がそんな命令を下した?」
答え。「コントロール」
醜いアメリカ人は・・・コントロールの手先である・・・
form ア・プーク・イズ・ヒア, pp.14-15
(赤字は朗読での改変)
------------------------------------------
Question: If Control’s control is absolute, why does Control need to control?
Answer: Control… needs time.
< -- omitted -- >
Question: Is Control controlled by its need to control?
Answer: Yes.
(Question:) Why does Control need humans, as you call them? (< -- omitted -- >)
(Answer:) Wait…
Wait ! Time, a landing field.
from Ah Pook Is Here
問い。「コントロールのコントロールが絶対的なものなら、なぜコントロールはコントロールする必要があるのか?」
答え。「コントロールは時間を必要としているからだ」
< -- 省略 -- >
問い。「コントロールは、コントロールしなければならないという強迫観念にコントロールされているのでは?」
答え。「そうだ」
(問い。)「なぜコントロールは、あなたが呼ぶ『人間(ヒューマンズ)』を必要としているのか?(< -- 省略 -- >)」
(答え。)「待ってくれ」
待つ。タイム。時間。離着陸場。
form ア・プーク・イズ・ヒア, pp.32-33
------------------------------------------
Death needs time like a junkie needs junk. And what does Death need time for? The answer is sooo simple. Death needs time for what it kills to grow in, for Ah Pook’s sake.
Death needs time for what it kills to grow in, for Ah Pook’s sweet sake, you stupid vulgar greedy ugly American death-sucker.
Death needs time for what it kills to grow in, for Ah Pook’s sweet sake, you stupid vulgar greedy ugly American death-sucker.
Like this.
from Ah Pook Is Here
ジャンキーがドラッグを必要とするように死は時間を必要としている。そして何のために死は時間を必要とするのか。答えはひじょーうに簡単である。死が時間を必要とするのは、死は殺したものの中で成長するからである、ア・プークのために。
死が時間を必要とするのは、死は殺したものの中で成長するからである、愛しきア・プークのために。愚かで、俗悪で、貪欲で、醜いアメリカのデス・サッカーよ。
死が時間を必要とするのは、死は殺したものの中で成長するからである、愛しきア・プークのために。愚かで、俗悪で、貪欲で、醜いアメリカのデス・サッカーよ。
こういうことだ!
form ア・プーク・イズ・ヒア, pp.20-21
(赤字は朗読に合わせて、和訳に付加)
------------------------------------------
Ah Pookは中米Mayaの「死の神」。この神様の他、Mayaの宗教における死について語っている。
------------------------------------------
続いては、Brion Gysinから聞いた話。
Brion Gysin had the all purpose nuclear bed time story—the all purpose bedtime story, in fact. Some trillions of years ago a sloppy dirty giant flicked grease from his fingers one of those gobs of grease is our universe on its way to the floor—splat.
引用元:
・DEPAUW UNIVERSITY > Science Fiction Studies > Past Issues > Full Texts of Sold-Out Back Issues > #68 Volume 23, Part 1 (March 1996) > Brent Wood (1996.3) William S. Burroughs and the Language of Cyberpunk. Science Fiction, vol.23, Part 1.
https://www.depauw.edu/sfs/backissues/68/wood68.html
------------------------------------------
一見核兵器反対について述べていると思うかもしれないが、広島はintroで、「コントロール」と死について語っている。
Brion Gysin(1916-86)は、UK出身の画家、詩人。Burroughsにcut-upの手法をsuggestし、Burroughsが次のstageに進むきっかけとなった人物。
------------------------------------------
John Cale作のpizzicatoによるstringsも、前曲で淀んだ空気を取っ払うのに効果的。朗読の中身は変わらず淀んでいるが(笑)。
===========================================
(追記)@2018/02/07
「Control」というのは、Burroughs作品の中でももっとも重要なkeywordの一つ。
「この世界はすべてcontrolされている」というのがBurroughsの持論。そのcontrolから逃れるのが、Burroughsの小説のテーマであり、人生の目的でもある。
そのcontrolの概念も一つではなく、支配、操縦、制約、依存などいろいろな内容を含んでいる。Controlの主体も、人格を持っていることもあれば、controlされる側が勝手にcontrolされていると思い込んでいるだけで主体がない場合もある。
まあとにかく、この朗読は、Burroughs' "control"入門編としてちょうどいいかもしれない。
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
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William S. Burroughs (vo, words), John Cale (music, comp),
04. Ah Pook the Destroyer / Brion Gysin's All-Purpose Bedtime Story
Burroughsのわけのわからん朗読のバックには、John Cale作のお上品なstrings曲。
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ここで引用するAh Pook Is Here/ア・プーク・イズ・ヒアの版は、
・William S. Burroughs (1979) Ah Pook Is Here. IN : AH POOK IS HERE AND OTHER TEXTS. 157pp. J.Calder, London.
引用元:
・OPEN CULTURE : The best free cultural & educational media on web > Archives > May 2014 > Jonathan Crow/Watch William S. Burroughs’ Ah Pook is Here as an Animated Film, with Music By John Cale(May 29th, 2014)
http://www.openculture.com/2014/05/ah-pook-is-here.html
・ウィリアム・S・バロウズ・著, 飯田隆昭・訳 (1992.8) ア・プーク・イズ・ヒア. 『ア・プーク・イズ・ヒア』所収. pp.5-86. ファラオ企画, 東京.
装幀 : 芦澤泰偉
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Itzama, spirit of early mist and showers.
Ixtaub, goddess of ropes and snares.
Ixchel, the spider web, catcher of morning dew.
Zooheekock, virgin fire patroness of infants.
Adziz, the master of cold.
Kockupocket, who works in fire.
Ixtahdoom, she who spits out precious stones.
Ixchunchan, the dangerous one.
Ah Pook, the destroyer.
from Ah Pook Is Here
朝霧と驟雨の精イツァムナ
縄と罠の女神イクス・タブ
朝霧をとらえる蜘蛛の巣の精イクス・シェル
汚れなき火の神であり幼き子の保護神ズーイ・カク
冷寒の王ア・ジーズ
火中で業をなすカク・ウ・パカット
宝石を吐き出す女神イクス・タブ・タン
剣呑なる神ヘクス・チュン・チャン
破壊の神ア・プーク
form ア・プーク・イズ・ヒア, p.29
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Hiroshima, 1945, August 6, sixteen minutes past 8 AM.
< -- omitted -- >
(Questiion:) Who really gave that order?
Answer: Control.
The Ugly American. The instrument of Control.
from Ah Pook Is Here
(赤字は朗読での改変)
広島・・・一九四五年・・・八月六日・・・午前八時十六分。
< -- 省略 -- >
(問い。)「誰がそんな命令を下した?」
答え。「コントロール」
醜いアメリカ人は・・・コントロールの手先である・・・
form ア・プーク・イズ・ヒア, pp.14-15
(赤字は朗読での改変)
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Question: If Control’s control is absolute, why does Control need to control?
Answer: Control… needs time.
< -- omitted -- >
Question: Is Control controlled by its need to control?
Answer: Yes.
(Question:) Why does Control need humans, as you call them? (< -- omitted -- >)
(Answer:) Wait…
Wait ! Time, a landing field.
from Ah Pook Is Here
問い。「コントロールのコントロールが絶対的なものなら、なぜコントロールはコントロールする必要があるのか?」
答え。「コントロールは時間を必要としているからだ」
< -- 省略 -- >
問い。「コントロールは、コントロールしなければならないという強迫観念にコントロールされているのでは?」
答え。「そうだ」
(問い。)「なぜコントロールは、あなたが呼ぶ『人間(ヒューマンズ)』を必要としているのか?(< -- 省略 -- >)」
(答え。)「待ってくれ」
待つ。タイム。時間。離着陸場。
form ア・プーク・イズ・ヒア, pp.32-33
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Death needs time like a junkie needs junk. And what does Death need time for? The answer is sooo simple. Death needs time for what it kills to grow in, for Ah Pook’s sake.
Death needs time for what it kills to grow in, for Ah Pook’s sweet sake, you stupid vulgar greedy ugly American death-sucker.
Death needs time for what it kills to grow in, for Ah Pook’s sweet sake, you stupid vulgar greedy ugly American death-sucker.
Like this.
from Ah Pook Is Here
ジャンキーがドラッグを必要とするように死は時間を必要としている。そして何のために死は時間を必要とするのか。答えはひじょーうに簡単である。死が時間を必要とするのは、死は殺したものの中で成長するからである、ア・プークのために。
死が時間を必要とするのは、死は殺したものの中で成長するからである、愛しきア・プークのために。愚かで、俗悪で、貪欲で、醜いアメリカのデス・サッカーよ。
死が時間を必要とするのは、死は殺したものの中で成長するからである、愛しきア・プークのために。愚かで、俗悪で、貪欲で、醜いアメリカのデス・サッカーよ。
こういうことだ!
form ア・プーク・イズ・ヒア, pp.20-21
(赤字は朗読に合わせて、和訳に付加)
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Ah Pookは中米Mayaの「死の神」。この神様の他、Mayaの宗教における死について語っている。
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続いては、Brion Gysinから聞いた話。
Brion Gysin had the all purpose nuclear bed time story—the all purpose bedtime story, in fact. Some trillions of years ago a sloppy dirty giant flicked grease from his fingers one of those gobs of grease is our universe on its way to the floor—splat.
引用元:
・DEPAUW UNIVERSITY > Science Fiction Studies > Past Issues > Full Texts of Sold-Out Back Issues > #68 Volume 23, Part 1 (March 1996) > Brent Wood (1996.3) William S. Burroughs and the Language of Cyberpunk. Science Fiction, vol.23, Part 1.
https://www.depauw.edu/sfs/backissues/68/wood68.html
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一見核兵器反対について述べていると思うかもしれないが、広島はintroで、「コントロール」と死について語っている。
Brion Gysin(1916-86)は、UK出身の画家、詩人。Burroughsにcut-upの手法をsuggestし、Burroughsが次のstageに進むきっかけとなった人物。
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John Cale作のpizzicatoによるstringsも、前曲で淀んだ空気を取っ払うのに効果的。朗読の中身は変わらず淀んでいるが(笑)。
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(追記)@2018/02/07
「Control」というのは、Burroughs作品の中でももっとも重要なkeywordの一つ。
「この世界はすべてcontrolされている」というのがBurroughsの持論。そのcontrolから逃れるのが、Burroughsの小説のテーマであり、人生の目的でもある。
そのcontrolの概念も一つではなく、支配、操縦、制約、依存などいろいろな内容を含んでいる。Controlの主体も、人格を持っていることもあれば、controlされる側が勝手にcontrolされていると思い込んでいるだけで主体がない場合もある。
まあとにかく、この朗読は、Burroughs' "control"入門編としてちょうどいいかもしれない。
2018年2月4日日曜日
BURROUGHS WITH MUSIC (20) DEAD CITY RADIO-その3
引き続き
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
------------------------------------------
William S. Burroughs (vo, words), NBC Symhony Orch, Frank Denning (comp)
03. Naked Lunch Excerpts ("You Got Any Eggs for Fats ?") / Dinner Conversation ("The Snakes")
NBC Symphony Orchの美しい曲をバックに、THE NAKED LUNCHの汚濁に満ちた一節を朗読していく。
Burroughsは、酔っぱらっているかのようなヘロヘロの声で朗読。すごく聞き取りにくい。
------------------------------------------
ここで引用するTHE NAKED LUNCH/『裸のランチ』の版は、
・William Burroughs (2001) NAKED LUNCH : THE RESTORED TEXT. vii+289pp. Grove Press, NYC.
← Original : (1959) THE NAKED LUNCH (The Traveller's Companion Series, no.76). Olympia Press, Paris.
・W・バロウズ・著, 鮎川信夫・訳 (2003.8) 『裸のランチ』(河出文庫). 373pp. 河出書房新社,
← 原版 : (1965.9) (人間の文学19). 河出書房新社, 東京.
------------------------------------------
"Ever see a hot shot hit, kid? I saw the Gimp catch one in Philly. We rigged his room with a oneway whorehouse mirror and charged a sawski to watch it. He never got the needle out of his arm. They don't if the shot is right. That's the way they find them, dropped full of clotted blood hanging out of blue arm. The look in his eyes when it hit -- Kid, it was tasty....
from NAKED LUNCH, p.4
「ホット・ショットを見たことがあるかい? おれはフィリー(フィラデルフィア)でちんばの野郎がひっかかるのを見たよ。おれたちはやつの部屋に淫売屋用の覗き鏡を仕掛けて、そいつを見物するのに金をとるんだ。やつは針を腕から抜きもしなかった。本物のホット・ショットの注射なら抜けないからな。そうやって血の塊りの詰まった注射器(ドロッパー)を青ざめた腕からぶら下げたままで発見されるんだ。まったく、あれをぶちこんだときのちんばの目つきときたら、なんとも言えなかったぜ・・・・」
from 『裸のランチ』, pp.22-23
------------------------------------------
The Meet Cafe occupies one side of the Plaza, a maze of kitchen, restaurants, sleeping cubicles, perilous iron balconies and basements opening into the underground baths.
On stools covered in white satin sit naked Mugwumps sucking translucent, colored syrups through alabaster straws. Mugwumps have no liver and nourish themselves exclusively on sweets. Thin, purple-blue lips cover a razor-sharp beak of black bone with which they frequently tear each other to shreds in fights over clients. These creatures secrete an addicting fluid from their erect penises which prolong life by slowing metabolism. (< -- omitted -- >) Addicts of Mugwump fluids are known as Reptiles. A number of these flow over chairs with their flexible bones and black-pink flesh. A fan of green cartilage covered with hollow, erectile hairs through which the Reptiles absorb the fluid sprouts from behind each ear. The fans, which move from time to time touched by invisible currents, serve also same form of communication known only to Reptile.
from NAKED LUNCH, p.46
「ミート・カフェ」は広場の片側の、炊事場、レストラン、小寝室、あぶなっかしい鉄のバルコニー、地下の風呂場に通じる建物の基部などが迷路のように錯綜している一角にある。
白いサテンにおおわれた腰掛けには裸体の大立て者たちがすわり、雪花石膏のストローで半透明の色つきシロップをすすっている。大立て者たちには肝臓がなく、甘い物だけで滋養をとっている。薄い、青紫色の唇がカミソリのように鋭い黒い骨のくちばしをおおい隠している。彼等はしばしば客をめぐる争いで、このくちばしを使って、たがいにずたずたに切り裂き合う。また、この連中は勃起したコックから中毒性の液体を分泌し、これが新陳代謝を緩慢にして寿命をのばす。(< -- 省略 -- >) 大立て者液の中毒者は爬虫類の名で知られる。しなやかな骨と黒みがかったピンク色の肉をもったこれらの動物は、椅子の上からぐったりと体をはみ出させている。それぞれの耳のうしろからは扇型の軟骨が飛び出し、爬虫類が駅を吸うのに使う中空の直立した毛におおわれている。ときどき見えない流れに触れて動くこの扇形の軟骨は、爬虫類だけにわかる通信機関の役目も果たしている。
from 『裸のランチ』, pp.85-86
------------------------------------------
The Sailor spotted his Reptile. He drifted over and ordered a green syrup. The Reptile had a little, round disk mouth of brown gristle, expressionless green eyes almost covered by a thin membrane of eyelid. The Sailor waited an hour before the creature picked up his presence.
"Any eggs for Fats ?" he asked, his words stirring through the Reptile's fan hairs.
It took two hours for the Reptile to raise three pink transparent fingers covered with black fuzz.
It took two hours for the Reptile to raise three pink transparent fingers covered with black fuzz.
Several Meat Eaters lay in vomit, too weak to move. (The Black Meat is like a tained cheese, overpoweringly delicious and anusseating so that the eaters eat and vomit and eat again until they fall exhausted.)
A painted youth slithered in and seized one of the great black claws sending the sweet, sick smell curling through the café.
from NAKED LUNCH, p.47
船乗りは自分の爬虫類を見つけた。彼はふらふらと近づき、緑色のシロップを注文した。爬虫類は褐色の軟骨でできた小さな円盤のような口と、まぶたの薄い膜にほとんどおおわれた無表情な緑色の目をもっている。船乗りは一時間待った。そしてようやく、この生き物は船乗りの存在に気づいた。
「でぶにやるタマゴはないか?」と船乗りはきいた。彼の言葉は爬虫類の扇形の耳をかきわけた。
爬虫類が黒いむく毛におおわれた三本のピンク色の透明な指を上に上げるのに二時間かかった。
爬虫類が黒いむく毛におおわれた三本のピンク色の透明な指を上に上げるのに二時間かかった。
ブラック・ミート食いが数人、へどを吐きながら横たわり、動く力も失っていた。(ブラック・ミートは腐ったチーズのように非常に美味だが吐き気を催させるので、食べる連中は食べては吐き、吐いては食べして疲れきって倒れるまで続ける。)
厚化粧の若者が一人すべりこんできて、大きな爪の一つをつかみ、甘くむかつくにおいをカフェ中に渦まかせる。
from 『裸のランチ』, p.87
------------------------------------------
Burroughsの朗読も、芝居っ気たっぷり。緩急・強弱もつけており、気合が入っている。
Burroughsの声もスゴイが、やっぱり原文の威力が圧倒的。THE NAKED LUNCHの迫力は異様だ。
後に、WillnerはTHE NAKED LUNCHの朗読だけを集めたアルバムも制作しているが、なんとCD3枚組だ。これも後で紹介する。
さらに、その朗読に音楽をつけたversionは、2016年にリリースされている。これも後ほど。
------------------------------------------
後半は、本アルバムのBurroughs朗読録音後の晩飯時の雑談を録音しておいたもののようだ。
ヘビについて、Burroughsがいい調子で語りまくっている。楽しそうだ。
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(追記)@2019/02/24
この雑談こそが、Burrough文学の本質とも言える「Routine」だ。
和訳すると「定常的に繰り出される小話」「おなじみの小話」「また始まったよ、アレが」と云ったところだろうか。
基本的にウケ狙いで、落ちがある。聴衆は爆笑。
William S. Burroughs/DEAD CITY RADIO [Island] release.1990
Design : Kevin A. McDonagh
------------------------------------------
William S. Burroughs (vo, words), NBC Symhony Orch, Frank Denning (comp)
03. Naked Lunch Excerpts ("You Got Any Eggs for Fats ?") / Dinner Conversation ("The Snakes")
NBC Symphony Orchの美しい曲をバックに、THE NAKED LUNCHの汚濁に満ちた一節を朗読していく。
Burroughsは、酔っぱらっているかのようなヘロヘロの声で朗読。すごく聞き取りにくい。
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ここで引用するTHE NAKED LUNCH/『裸のランチ』の版は、
・William Burroughs (2001) NAKED LUNCH : THE RESTORED TEXT. vii+289pp. Grove Press, NYC.
← Original : (1959) THE NAKED LUNCH (The Traveller's Companion Series, no.76). Olympia Press, Paris.
・W・バロウズ・著, 鮎川信夫・訳 (2003.8) 『裸のランチ』(河出文庫). 373pp. 河出書房新社,
← 原版 : (1965.9) (人間の文学19). 河出書房新社, 東京.
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"Ever see a hot shot hit, kid? I saw the Gimp catch one in Philly. We rigged his room with a oneway whorehouse mirror and charged a sawski to watch it. He never got the needle out of his arm. They don't if the shot is right. That's the way they find them, dropped full of clotted blood hanging out of blue arm. The look in his eyes when it hit -- Kid, it was tasty....
from NAKED LUNCH, p.4
「ホット・ショットを見たことがあるかい? おれはフィリー(フィラデルフィア)でちんばの野郎がひっかかるのを見たよ。おれたちはやつの部屋に淫売屋用の覗き鏡を仕掛けて、そいつを見物するのに金をとるんだ。やつは針を腕から抜きもしなかった。本物のホット・ショットの注射なら抜けないからな。そうやって血の塊りの詰まった注射器(ドロッパー)を青ざめた腕からぶら下げたままで発見されるんだ。まったく、あれをぶちこんだときのちんばの目つきときたら、なんとも言えなかったぜ・・・・」
from 『裸のランチ』, pp.22-23
------------------------------------------
The Meet Cafe occupies one side of the Plaza, a maze of kitchen, restaurants, sleeping cubicles, perilous iron balconies and basements opening into the underground baths.
On stools covered in white satin sit naked Mugwumps sucking translucent, colored syrups through alabaster straws. Mugwumps have no liver and nourish themselves exclusively on sweets. Thin, purple-blue lips cover a razor-sharp beak of black bone with which they frequently tear each other to shreds in fights over clients. These creatures secrete an addicting fluid from their erect penises which prolong life by slowing metabolism. (< -- omitted -- >) Addicts of Mugwump fluids are known as Reptiles. A number of these flow over chairs with their flexible bones and black-pink flesh. A fan of green cartilage covered with hollow, erectile hairs through which the Reptiles absorb the fluid sprouts from behind each ear. The fans, which move from time to time touched by invisible currents, serve also same form of communication known only to Reptile.
from NAKED LUNCH, p.46
「ミート・カフェ」は広場の片側の、炊事場、レストラン、小寝室、あぶなっかしい鉄のバルコニー、地下の風呂場に通じる建物の基部などが迷路のように錯綜している一角にある。
白いサテンにおおわれた腰掛けには裸体の大立て者たちがすわり、雪花石膏のストローで半透明の色つきシロップをすすっている。大立て者たちには肝臓がなく、甘い物だけで滋養をとっている。薄い、青紫色の唇がカミソリのように鋭い黒い骨のくちばしをおおい隠している。彼等はしばしば客をめぐる争いで、このくちばしを使って、たがいにずたずたに切り裂き合う。また、この連中は勃起したコックから中毒性の液体を分泌し、これが新陳代謝を緩慢にして寿命をのばす。(< -- 省略 -- >) 大立て者液の中毒者は爬虫類の名で知られる。しなやかな骨と黒みがかったピンク色の肉をもったこれらの動物は、椅子の上からぐったりと体をはみ出させている。それぞれの耳のうしろからは扇型の軟骨が飛び出し、爬虫類が駅を吸うのに使う中空の直立した毛におおわれている。ときどき見えない流れに触れて動くこの扇形の軟骨は、爬虫類だけにわかる通信機関の役目も果たしている。
from 『裸のランチ』, pp.85-86
------------------------------------------
The Sailor spotted his Reptile. He drifted over and ordered a green syrup. The Reptile had a little, round disk mouth of brown gristle, expressionless green eyes almost covered by a thin membrane of eyelid. The Sailor waited an hour before the creature picked up his presence.
"Any eggs for Fats ?" he asked, his words stirring through the Reptile's fan hairs.
It took two hours for the Reptile to raise three pink transparent fingers covered with black fuzz.
It took two hours for the Reptile to raise three pink transparent fingers covered with black fuzz.
Several Meat Eaters lay in vomit, too weak to move. (The Black Meat is like a tained cheese, overpoweringly delicious and anusseating so that the eaters eat and vomit and eat again until they fall exhausted.)
A painted youth slithered in and seized one of the great black claws sending the sweet, sick smell curling through the café.
from NAKED LUNCH, p.47
船乗りは自分の爬虫類を見つけた。彼はふらふらと近づき、緑色のシロップを注文した。爬虫類は褐色の軟骨でできた小さな円盤のような口と、まぶたの薄い膜にほとんどおおわれた無表情な緑色の目をもっている。船乗りは一時間待った。そしてようやく、この生き物は船乗りの存在に気づいた。
「でぶにやるタマゴはないか?」と船乗りはきいた。彼の言葉は爬虫類の扇形の耳をかきわけた。
爬虫類が黒いむく毛におおわれた三本のピンク色の透明な指を上に上げるのに二時間かかった。
爬虫類が黒いむく毛におおわれた三本のピンク色の透明な指を上に上げるのに二時間かかった。
ブラック・ミート食いが数人、へどを吐きながら横たわり、動く力も失っていた。(ブラック・ミートは腐ったチーズのように非常に美味だが吐き気を催させるので、食べる連中は食べては吐き、吐いては食べして疲れきって倒れるまで続ける。)
厚化粧の若者が一人すべりこんできて、大きな爪の一つをつかみ、甘くむかつくにおいをカフェ中に渦まかせる。
from 『裸のランチ』, p.87
------------------------------------------
Burroughsの朗読も、芝居っ気たっぷり。緩急・強弱もつけており、気合が入っている。
Burroughsの声もスゴイが、やっぱり原文の威力が圧倒的。THE NAKED LUNCHの迫力は異様だ。
後に、WillnerはTHE NAKED LUNCHの朗読だけを集めたアルバムも制作しているが、なんとCD3枚組だ。これも後で紹介する。
さらに、その朗読に音楽をつけたversionは、2016年にリリースされている。これも後ほど。
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後半は、本アルバムのBurroughs朗読録音後の晩飯時の雑談を録音しておいたもののようだ。
ヘビについて、Burroughsがいい調子で語りまくっている。楽しそうだ。
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(追記)@2019/02/24
この雑談こそが、Burrough文学の本質とも言える「Routine」だ。
和訳すると「定常的に繰り出される小話」「おなじみの小話」「また始まったよ、アレが」と云ったところだろうか。
基本的にウケ狙いで、落ちがある。聴衆は爆笑。
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