Kerouacの伝記はいくつもあるのだが、私が読んだのはこれだけ。
・バリー・ギフォード+ローレンス・リー・編著, 青山南+堤雅久+中俣真知子+古屋美登里・訳 (1998.1) 『ケルアック』. 542+xxiv pp. 毎日新聞社, 東京.
装幀 : 坂川事務所
← 英語原版 : Barry Gifford+Lawrence Lee (1978) JACK'S BOOK : AN ORAL BIOGRAPHY OF JACK KEROUAC. 339pp. St. Martin Press, NYC.
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この本はなぜか全然知られていないし、Amazonあたりの書評も全くない。不思議な本。
そもそも、1978年の本が20年後に翻訳されたのも謎だし、それを毎日新聞社が出したのもわからない。当時、日本で何かKerouac関連のeventってあったのかなあ?
・スティーブ・ターナー・著, 室矢憲治・訳 (1998.11) 『ジャック・ケルアック 放浪天使の歌』. 376pp. 河出書房新社, 東京.
← 英語原版 : Steve Turner (1996) ANGELHEADED HIPSTER : A LIFE OF JACK KEROUAC. Viking, NYC.
が出たのも同年だ。なんでかなあ?1997年にGinsbergとBurroughsが亡くなった影響はあるかもしれないな。
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全部で600ページ近くあるし、値段も3400円+税と高い。おそらく刷り部数も少なかったのだろう。毎日新聞社は、当時もすでに出版に熱心な新聞社ではなくなっていたし。
古本でも見かけたことがなかった。それで今回ようやく読んだわけ。
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Kerouacの人生を、友人たちの証言で追うdocumentary。1978年当時はまだ珍しかった「oral history」という手法だ。編著者の主観よりも、証言を重視している。観念的な話が少ないので、すごく読みやすい。
証言者ごとに訳者を割り振って、言い回しを統一しているのも面白い。
Burroughsの証言が3つしかないのは物足りないが、訳文はいかにもBurroughsらしいcoolな口調になっている。素晴らしい。Burroughsの映像なども参考にして訳文を作っていると思う。
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これを読むと、Kerouacはなかなか自分の本が出してもらえず、けっこう苦労したことがわかる。『ON THE ROAD』も出版されるまで10年くらいかかってる。
もちろん、その間何度も書き直していることも記述されており、「三週間で書いた」がハッタリであることもバレている。
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1957年に『ON THE ROAD』が出る頃には、その後に出る諸作もすでに書き終えていた。だから、この伝記も『ON THE ROAD』が出て大ヒット、その熱狂に巻き込まれるところで実質的に終わっている。
そのあとは、虚脱して酒に溺れていくKerouacの惨めな姿を見るしかない。読むのも辛い。Jaco Pastriusと似たところがあるね。「一度は大仕事を成し遂げた自分」との戦いだ。
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本書で一番長い章は「3 The Road(路上)」。これは『ON THE ROAD』の元ネタになった旅の日々を追う章。主人公はKerouacというよりNeal Cassady。Kerouacの影は薄い。
しかし、Nealが中心になる分、Nealとその女たちの話ばっかり。果てしなく続く痴話喧嘩にへきえき。(日本の)ヤンキーの身の上話を居酒屋で延々聞かされているような感じ。
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『ON THE ROAD』ではMarylouという名で登場するLu Anne Henderson(1930-2009)の証言もたくさんある。この人は、Nealが最初に結婚した娘で、結婚当時15歳。
写真を見るとなかなかカワイイ娘だ。一見小柄に見えるが、身長は170cm以上らしい。
だが、本書に見える言動を見ると、これが見事な「アーパー娘」。
Nealと離婚した後も、他の男と結婚した後も、Nealと関係を続け、2番めの妻Carolyn(『ON THE ROAD』ではCamille)を悩ませ続けた。
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こんなアーパー娘にも、評伝(というよりiinterview本)があるのだ。『ON THE ROAD』のご威光はすごいね。著者の片割れはLu Anneの娘さん。
・ジェラルド・ニコシア+アン・マリー・サントス・著, 堀江里美・訳 (2013.7) 『ガールズ・オン・ザ・ロード』. 253pp. 河出書房新社, 東京.
装丁 : 水戸部功
← 英語原版 : Gerald Nicosia+Ann Marie Santos (2011) ONE AND ONLY : THE UNTOLD STORY OF ON THE ROAD AND LU ANNE HENDERSON, THE WOMAN WHO STARTED JACK KEROUAC AND NEAL CASSADY ON THEIR JOURNEY. 244pp. Viva Editions, Berkeley (CA).
同書は、Nicosiaが1978年にLu Anneにinterviewした内容が中心。長らくお蔵入りとなっていたが、2011年にようやく陽の目を見た。
NicosiaにLu Anneの居所を教えたLarry Leeという人物は、『ケルアック』の著者の一人Lawrence Leeと同一人物。Nicosiaに先立ってLu Anneにinterviewし、『ケルアック』に収録したものとみられる。両証言は当然重複する内容が多い。
でも、このLu Anneの証言からですら、Kerouacらの旅の様子は至極楽しそうなのが伝わってくる。
だが、San FranciscoでNealが、金も尽きたLu AnneとKerouacを置き去りにして逃げて行った時には相当ショックだったらしく、interviewでは何度もこの話を繰り返し、恨みつらみをinterviewerにぶつける。どうもNealはLu Anneが邪魔で、Kerouacに押しつけようとしたらしい。クズ野郎ですね。
二人も危うく出来上がりそうだったのだが、Kerouacはどっと落ち込んで動きもせず。結局、母親から送金してもらって、バスでNYCに帰った。この辺のKerouacのダメっぷりは自著ではあまり描かれないところ。
後半は、Nealの親友Al Hinkle(『ON THE ROAD』ではEd Dunkel)への取材を再構成したもの、そしてLu Anneの娘Ann Marie Santosによる母の回想。
この本は、Lu Anneを肯定的に描くことに努めているのだが、まあ話半分で・・・。
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『ケルアック』に戻って・・・
初めて知っておもしろかったのは、BurroughsとNealは相性が悪かったらしいこと。確かにBurroughsの口からNeal Cassadyの話が出てくることはない。
BurroughsがLouisiana州Algiersで暮らしていた1949年に、Kerouac、Neal一行がBurroughs宅を訪れるが、その際にも二人は互いを避けていたようだ。
確かに、躁病のスケコマシ+歩く陽物Nealと、陰鬱な学者肌Burroughsが合うとは思えない。それでも両者は、一緒くたにBeat Generationとしてくくられているんだからおもしろい。
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Kerouacの自著や既存の情報ではあまり明らかにされていない、Keouacの同性愛やdrugとの関わりがいろいろ出てきているのも面白いところ。
Kerouacは基本heterosexalだったが、どうもNealとは同性愛関係にあったようだ。限定的bisexual。ただし、肉体関係にはそれほど深入りしてはいなかったようで、「Kerouacはheterosexualだよ」と断言する人も多い。
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KerouacはBenzedrine(覚醒剤の一種、当時は合法)を多用しながら一気に『ON THE ROAD』や『THE SUBTERRANEAN』を書き上げた、という神話は有名。ただしこれは多分にハッタリが入っている。
確かに、果てしなく続くスピード感は、upper系drugの力を強く感じる。だが、あのスピード感はKerouacがもともと持っていた資質でもあり、drugはそれをちょっと助けた程度ではないか。
Marijuanaは結構やっていたようだ。Kerouacのあのダラダラ文体は、marijuanaで止めどなく湧いてくるimageによるもの、という説もある。
しかし、Kerouacはdrugよりも酒の人だ。この本でも最後はKerouacのアル中episodeであふれている。人集めが好きだったKerouacにとっては、自分の中に閉じこもるdrugよりは、やっぱり酒だったのだろう。
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本書は読み物としてもおもしろいのだが、巻末の「Kerouac小説の登場人物名-実在の人物名」対照表、Keouac著作リスト(ご丁寧に、執筆年、発表年、小説のモデルとなっている年が並べてある)、索引などの資料も充実。これを使って何か書くには最適な、Beat Generation資料集でもある。
この証言集・評伝が埋もれたままなのはもったいない。文庫化してほしい。でも無理かなあ。大部すぎる。
これから、Kerouac & The Beat Generationの話が延々続くのだが、折々でこの『ケルアック』からのネタも投入していくことにしよう。
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(追記)@2019/04/16
『ON THE ROAD』が大ヒットし、登場人物は仮名だったものの、Dean MoriartyのモデルがNeal Cassadyであることは、世間にはバレバレだった。
おかげでNealはすっかり警察にマークされ、1958年にはmarijuana不法所持・売買で逮捕。2年間の獄中生活を送る羽目になった。
ちょっとかわいそうでもあるが、自業自得の面が大きいので、さして同情はできない。
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(追記)@2019/04/17
青字を追記した。