2017年10月30日月曜日

美の極致 Derek Bailey/BALLADS & STANDARDS (5)

続いては、2005年にBaileyが亡くなった後、2007年に出た

Derek Bailey/STANDARDS [Tzadik] rec.2001, pub.2007


Design : Hueng-Hueng Chin

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これも美しいジャケ写。だいぶ調べたのだが、こちらは出どころがわからなかった。

有名な写真なのかもしれないし、無名の写真なのかもしれない。John Zornは膨大な写真コレクションも持っており、その内容は玉石混交。

Naked City、Pain Killerなどのジャケ写には、その中から特別「悪趣味」な写真が選ばれている。ほしいんだけど、ジャケ写のあまりの気持ち悪さに、購入に二の足を踏む人も多いだろう。

このアルバムは、そんな心配はないが・・・。

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BALLADSには解説はあるが、録音の経緯については、Baileyの電話インタビューがちょっとあるだけで、詳しい事情はよくわからない。

STANDARDSの方には、John ZornとKaren Brookman – Bailey(Baileyの奥さん)の解説、というよりエッセイがある。これで、STANDARDS~BALLADS録音の経緯を知ることができる。

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2001年のクリスマス、訪NY中だったBaileyは念願のvintageもののguitarを買った。そして滞在中のHotelにZornとIkue Mori(元DNAのdrummer)を招き、楽しい時を過ごした。

買ったばかりのguitarを、いじっては爪弾いていたBaileyだったが、誰かがLauraをリクエスト。上機嫌だったBaileyはBALLADSに聞かれるように、この美しいmelodyを弾くのであった。そして次々にリクエストに応えていった。

つき合いの長いZornも、こんなBaileyは聞いたことがなく、唖然、感動。すぐさま録音を決定。Baileyも快諾。その内容がSTANDARDSだ。録音は2011年12月末ということになろうか。

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Londonに帰ったBaileyは、どうもこの録音に満足しなかったようで、自前でもう一度録音し、テープをZornに送った。その内容がBALLADSだ。

後の録音(2002年1~3月のいつか)が、2002年4月にBALLADSとして発売。STANDARDSの方はオクラ入りとなり、Bailey没後にお蔵出しとなったのだった。

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2001/12, NYC
Derek Bailey (g-solo)

01. Nothing New (What's New)
02. Frankly My Dear I Don't Give a Dream (Gone with the Wind)
03. When Your Liver Has Gone (When Your Lover Has Gone)
04. Please Send Me Sweet Chariot (Rockin' Chair)
05. Don't Talk about Me (Please Don't Talk about Me When I'm Gone)
06. Pentup Serenade (Petnhouse Serenade)
07. Head (You Go to My Head)

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STANDARDSとBALLADSを比較して、まず気づくのは、BALLADSが14曲に対し、STANDARDSは7曲。

1曲あたり4~11分と、BALLADSよりずっと長いのだ。曲の展開もいつものfree improvisationが延々続き、曲のmelodyは最後にちょびっと出てくるだけ。曲のmelodyを冒頭に置くBALLADSとの大きな違いだ。

曲間も、medleyではなく毎回ちゃんと切れ目がある。

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おもしろいのは、free improvisationの最中、ちらほらとmelodyの断片が顔を出すこと。Melodyを弾こうか弾くまいか、そして、いつmelodyに入ろうか、と、逡巡している様がありありとわかるのだ。

Melodyへの入り方も唐突で、free improvisation部とテーマは全く別と見ることが可能な曲もある。だからなのか、STANDARDSでは元曲名ではなく、ちょっとひねった曲名がついている。

冒頭のmelodyの余韻で、free improvisationでも、なんとなくだが曲を演奏している雰囲気はあったBALLADSとは、かなり違った印象。

曲のmelodyもメリハリがなく、なんとなく自信なさげ。テーマを完奏しないで終わるのも多い。「バツが悪そう」「煮え切らない」「恥ずかしそう」といった言葉が頭に浮かぶ。

実際、準備期間がほとんどなかったようなので、melody弾きの実験は、中途半端に終わった感がある。この場合に必要だった準備は、練習というよりも「心の準備」とか「覚悟」だろう。

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「いかにも中途半端」というのは、Bailey自身が一番痛感していたようで、UKに戻りすぐさま再度録音。今度は思い切りよく、本プロジェクトのきっかけとなったLauraのmelodyをいきなり弾き始める。

「清水の舞台から飛び降りるつもりで、冒頭からトップギアに入れた」という感じ。これが大成功で、アルバムを通じこのLauraの余韻が残り、統一感のとれた作品となった(BALLADSのことね)。

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かと言って、STANDARDSが単なる「没テイク集」かというとそうではない。アプローチが違うのだ。その違いも見極めつつ聴いていくのが、一つの聴き方。

では、STANDARDSの曲を聴いていこう。

ツヅク

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(追記1)@2017/10/31

上で紹介した2001/12/24のパーティーの写真があった。

・Incus Records > FEATURES > (Derek Bailey's) Instruments > Epiphone Emperor Regent > page 3(as of 2017/10/31)
http://www.incusrecords.force9.co.uk/features/epiphone3.html

音楽だけ聴いていると、常に苦虫を噛み潰しているようなイメージのBaileyだが、こんなうれしそうな顔するんだな。「LauraでもGeorgiaでもなんでも弾いちゃうぞ」(笑)。

左写真はJohn ZornとIkue Mori。右写真はZornとBailey夫人。Page 4にも写真があります。

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(追記2)@2018/11/26

> これも美しいジャケ写。だいぶ調べたのだが、こちらは出どころがわからなかった。

と書きましたが、ようやくモデルが誰かわかりました。こちらでどうぞ。

2018年11月26日月曜日 Derek Bailey/STANDARDSのジャケ写モデルがわかった

ついでに、姉妹編BALLADSのジャケ写モデルについては、こちらをどうぞ。

2017年10月30日月曜日 美の極致 Derek Bailey/BALLADS & STANDARDS (5)

2017年10月28日土曜日

美の極致 Derek Bailey/BALLADS & STANDARDS (4)

・Derek Bailey/BALLADS [Tzadik] rec.2002, pub.2002


Design : Hueng-Hueng Chin

の9曲目から聴き続けましょう。

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09. Body and Soul(身も心も)(lyr - Edward Heyman+Robert Sour+Frank Eyton, comp - Johnny Green)

1930年発表。ミュージカルTHREE'S A CROWDで初演。Louis Armstrongをはじめとして続々と録音された。Paul Whitemanのバージョンが最もヒットしたようだ。1939年のColeman Hawkinsによる録音は、Jazz史上でも重要な作品となった。

以後、録音・名演ともに数えきれず。今も演奏され続ける現役standardだ。

参考:
・Wikipedia (English) > Body and Soul (1930 song)(This page was last edited on 1 September 2017, at 21:09)
https://en.wikipedia.org/wiki/Body_and_Soul_(1930_song)

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この曲も途中から始まる。これまた丁寧に丁寧にmelody、codeを弾いてくれる。1 chorusが終わりかと思いきや、きっちり終わらないままfreeへ。不意を突かれた!

時おりmelodyの断片が飛び出すので、この辺は「free improvisation」というより「free jazz」っぽい。

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10. Gone with the Wind

07のmelodyが再び登場。これは無意識で出てきてしまったのか、意図的に繰り返しているのか、まあ後者だろうな。

比較的おとなしいfree improvisation。またBody and Soulの断片が混じる。そして次の曲のmelodyが浮かび上がる。

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11. Rockin' Chair

これも07-08の流れと同じ。Code work中心にmelodyを奏でる。美しい。そしてfreeへ。この部分は日頃のBaileyっぽい。

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12. You Go to My Head(忘れられぬ君)(lyr - Haven Gillespie, comp - John Frederick Coots)

1938年発表。Larry Clinton Orchがヒットさせたというが、全然知らない人。同年にFats Waller、Duke Ellington、Teddy Wilisonも録音し、以来Jazz Standardとなったようだ。

よく聞く曲だけど、どのversionが有名とかはわからない。これまたLinda Ronstadt/FOR SENTIMENTAL REASONS [Elektra/Asylum] pub.1986に入ってたなあ。

参考:
・Wikipedia (English) > You Go to My Head(This page was last edited on 30 September 2017, at 17:34)
https://en.wikipedia.org/wiki/You_Go_to_My_Head

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例によって、突如melodyが浮かび上がる瞬間が美しい。Code workが絶品。Bosa Novaのようなmelody解釈で、BaileyのBosa Nova集なんてのも聴いてみたくなる。

ラストが決まりすぎ。とはいえ、切れ目なく次の曲へ。

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13. Georgia on My Mind(我が心のジョージア)(lyr - Stuart Gorrell, comp - Hoagy Carmichael,)

1930年発表。またも出ました、超ヒット・メイカーHoagy Carmichael。彼がまず自作自演で録音。続いてCarmichaelのボスFrankie Trumbauerが翌年ヒットを飛ばす。

この曲が有名になったのは、なんといってもRay Charles/THE GENIUS HITS THE ROAD [abc] pub.1960のversion。RayはGeorgia州出身なので、まさにピッタリ。

他にもWillie Nelson版や缶コーヒー「ジョージア」のCMでも有名ですなあ。

参考:
・Wikipedia (English) > Georgia on My Mind(This page was last edited on 22 September 2017, at 16:46)
https://en.wikipedia.org/wiki/Georgia_on_My_Mind

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Derek Baileyでこの曲が聞けるというのは、ホント驚きだ。疲れも見せずに、free improvisationも全開。いろんな曲の断片が混入してくるのも、最後の盛り上がりとして楽しい。

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14. Please Don't Talk about Me When I'm Gone(lyr - Sidney Clare, comp - Sam H. Stept)

1930年発表。以後、Jazz Singerに好まれたようだが、もう全然わからない。Bllie HolidayやElla Fitzgeraldのversionが有名らしい。

参考:
・Wikipedia (English) > Please Don't Talk About Me When I'm Gone(This page was last edited on 8 June 2017, at 00:04)
https://en.wikipedia.org/wiki/Please_Don%27t_Talk_About_Me_When_I%27m_Gone

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この曲はエンディングとして、テーマを1 chorus弾いただけ大団円。ちゃんとエンディングらしく終わらせるんだから、Baileyも立派なエンターテイナーだ。

最後に余韻を楽しむように、弦をいじるBailey。いやあ、お疲れさまでした、と言いたくなる。

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ここに、まさに名盤が出来上がったわけだが、曲名を見ていくと面白いことに気づく。

Jazz界から出てきたstandardがないのだ。つまりEllignton tunes(In A Sentimental MoodやSolitudeなど)やMonk tunes('Round Midnightなど)はない。Glen Millerの曲などもない。

Body and Soulのように、Jazzでも取り上げられstandard化したものもあるが、もともとはすべてpopular songだ。

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それも1930~40年代にヒットしたpopsがほとんど。これは、1930年生まれのBaileyの子供~青春時代だ。映画音楽も多い。

調べていると、なんかやたらと1939年という年が出てくる。なにかあるかも。

UK Sheffield生まれUK育ちのBailey。当時は映画、SPレコード、ラジオでこれらのpopsを聞いて育ったのだろう。ただし、Jazzは当時のUKまではなかなか届かなかったのかもしれない。第二次世界大戦中だったし。

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1920年代にヒットした、George Gershwin、Cole Porter、Irving Berlinといった有名どころの曲もない。1930年代でもRichard Rogers+Lorenz HartやJerome Kern+Oscar Hammerstein IIといったところもなく、それよりもずっと大衆的な曲ばかりだ。Hoagy Carmichaelの曲が2曲あるのも面白い。

つまりこれは、1940年代にはすでにstandardになっていたような曲はない、ということ。収録曲はBaileyが青春時代にリアルタイムで聴いていた当時の流行歌なのだ。

Baileyの青春時代が見えてくるではないか。

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とにかく、BALLADSから見える、Baileyの音楽歴最古層にあるのは「Jazzではない」ということがわかった。

Baileyがその後Jazzと、どの程度かかわり合いを持ったのかよく知らないのだが、Jazz色を全く感じさせないfree improvisationに入っていったのも、これで説明できるのかもしれない。

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まあ、そんな御託はどうでもよくて、このアルバムは、素直にstandardsのmelodyとBaileyのguitarの音色を味わえばそれで充分だ。

さあ、もう一度聴こう。

ツヅク

2017年10月25日水曜日

ロビン・ケリー 『セロニアス・モンク 独創のジャズ物語』 ひろい読み3 - Frankie Dunlop

・ロビン・ケリー・著, 小田中裕次・訳 (2017.10) 『セロニアス・モンク 独創のジャズ物語』. 673+30pp. シンコーミュージック・エンタテイメント, 東京.
← 英文原版 : Robin D.G. Kelley (2009) THELONIOUS MONK : THE LIFE AND TIMES OF AN AMERICAN ORIGINAL. xviii+588pp.+pls. Free Press, New York.


装丁 : 石川絢士(the GARDEN)

のひろい読み第3弾。今回はFrankie Dunlop特集。

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2017年2月8日水曜日 Thelonious Monk at the Five Spot大全(4) Five Spot 1957 with Coltrane

の(追記)でも書いたように、Frankie Dunlopは1957年に数日間だけMonk 4に加わりFive Spotに出演している。これがMonkとの初共演。

上掲書によれば、MonkはDunlopをえらい気に入っていたのだが、cabaret cardの不備によりやめざるを得なくなり、それでShadow Wilsonに交代したという。

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1957年以降のMonk 4のdrummerは、概ねShadow Wilson → Roy Haynes → Art Taylorと移り変わったが、Art Taylorが1960年はじめに脱退すると、その後半年くらいdrummer探しに苦労することになる。

1960年11月、Jazz Gallery, NYCでのliveからFrankie Dunlopが再登場。その後3年ほど、Monk 4ははじめて安定したメンバーとなり、Columbiaと契約し全盛期の名作を残すことになる。

私はFrankie Dunlop時代のMonk 4が一番好きだ。特にMonkの特異な演奏によく反応できる、当意即妙のDunlopのdrummingが、この時代のMonk 4に多大な活力を与えている。

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Dunlopは、1963年12月のPhilharmonic HallでのBig Band公演(Thelonious Monk/BIG BAND AND QUARTET IN CONCERT [Columbia] rec.1963)に参加し、1964年1月のFive Spotに参加した後、突如退団した。丸3年在籍し、さすがにDunlopも飽き飽きしていたらしい。そしてBen Riley登場。

しかし、その後Dunlopがどういう活動をしたのかわからず、不思議に思っていた。これだけの実力者にオファーがないはずがない。なぜ?

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で、上掲書でその謎が解けた。

DunlopがMonk 4を脱退したのは、なんと「俳優」になるためだった、というのだ!俳優といっても、パントマイムや物まねをステージで披露する、というもので、「boardbillian」といったところだろうか。どうもDunlopにはその才能があったらしいのだ。

その世界でDunlopが成功したのかどうかは、わからない。時おりJazzの仕事もしていたようで、Sonny Rollins/ALFIE [Impulse] rec.1966にその名前が見える。

・Wikipedia (English) > Frankie Dunlop (This page was last edited on 10 October 2017, at 03:19)
https://en.wikipedia.org/wiki/Frankie_Dunlop

によれば、1970年代には、Lionel HamptonやEarl Hinesと共演しているらしいが、よく知らない。

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毎度おなじみの

Hal Willner/THAT'S THE WAY I FEEL NOW : A TRIBUTE TO THELONIOUS MONK [A&M(キャニオン)] pub. 1984


Design : M&Co. New York

にも、あまり目立たないが当然参加している。

ca. 1984, NYC
Terry Adams and Friends
Roswell Rudd (tb), Pat Patrick (as), Terry Adams (p), John Ore (b), Frankie Dunlop (ds)

C5. In Walked Bud

Terry Adamsはこの盤にもう一回登場しているNRBQ(New Rhythm and Blues Quartet/Quintet)のリーダー。

Dunlopと同時期にMonk 4に参加していた、John Oreの登場もうれしい。

Sun Ra Arkestraの重鎮Pat Patrickの参加が奇異に思えるかもしれないが、実は1970年にCharlie Rouseがやめた後、半年ほどPat PatrickがMonk 4のメンバーだったのだ。

John OreもSun Ra Arkestraのメンバーだったし、意外なところでMonkとSun Raはつながるのだ。

Pat PatrickとBeaver Harrisが加わっていた時代のMonk 4は、録音が知られていないが、ちょっと聴いてみたい。MonkはBeaver Harrisのdrummingを嫌って、すぐにクビにしてしまったらしいが。

Frankie Dunlopはこの録音を残し引退してしまったらしい。亡くなったのは2014年とごく最近だ。

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上掲書でも、Frankie Dunlopに取材した形跡があるが、この本には謝辞のページがないので、その実態はよくわからない(もしかすると原著には長々と謝辞があったんではないかと思う)。

まあしかし、これまで全然わからなかった、Monk 4以降のDunlopについて、一応納得できる情報が得られたので、すっきりした。

このようにこの本は、Monk周辺の人についても、情報の宝庫なのである。是非手元において、Monkについていろいろ考えてほしい。

2017年10月21日土曜日

美の極致 Derek Bailey/BALLADS & STANDARDS (3)

・Derek Bailey/BALLADS [Tzadik] rec.2002, pub.2002


Design : Hueng-Hueng Chin

の3曲目から聴き続けましょう。

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03. When Your Lover Has Gone(恋去りし時)(comp - Einar Aaron Swan)

1931年発表。映画 Roy Del Ruth(dir) (1931) BLONDE CRAZY(ブロンド・クレイジー)(主演:James Cagny)の挿入楽曲。Louis Armstrongが同年すぐさま録音して、Jazz Standardとなったらしい。

Sue Raney、Doris Dayあたりで有名らしいが、自分は全然知らない。そういえば、これもLinda Ronstadt/LUSH LIFE [Elektra/Asylum] pub.1984で歌ってたなあ。

参考 :
・Wikipedia (English) > List of 1930s jazz standards(This page was last edited on 29 September 2017, at 15:40)
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_1930s_jazz_standards
・Wikipedia (English) > When Your Lover Has Gone(This page was last edited on 7 September 2017, at 18:23.)
https://en.wikipedia.org/wiki/When_Your_Lover_Has_Gone

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最初、叩きつけるようにcodeを弾くのでちょっと心配になるが、すぐにまっとうにmelodyを弾き始めるので、逆に驚いてしまう。これも美しいこと。

Free improvisationに入っても、断片的な音列ではなく、rhythmに乗って一応連続した音列を弾いている。いつものBaileyらしからぬ展開だ。

そうこうするうちに、medleyでいつの間にか次の曲へ。

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04. Stella by Starlight(星影のステラ)(lyr - Ned Washington, comp - Victor Young)

曲は1944年発表。映画Lewis Allen(dir) (1944) THE UNINVITED(呪いの家)(主演:Ray Milland, Ruth Hussey)の挿入楽曲。1946年に歌詞がつけられた。

1947年に、Harry James Orch、Frank Sinatraでヒット。以後Jazz Standardとして演奏され続けている。

Bud Powell、Miles Davis、Wayne Shorter-Herbie Hancock Duoなど、名演も数知れず。自分としては、Benny Golson/TURNING POINT [Mercury] rec.1962, pub.1963での演奏が好きだ。

参考:
・Wikipedia (English) > Stella by Starlight(This page was last edited on 19 May 2017, at 21:46)
https://en.wikipedia.org/wiki/Stella_by_Starlight
・ウィキペディア > 星影のステラ(最終更新 2017年5月22日 (月) 14:44)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%9F%E5%BD%B1%E3%81%AE%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A9

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気がつくと、いつの間にかStella by Starlightのmelodyが(また途中から)。すごく気持ちいい。

Free imrovisationに入ると、Stella by Starlightの姿は消えるが、雰囲気は曲のままだ。後半、断片的に飛び出すmelodyがまた美しく、free improvisationでも、確かに「曲」を演奏しているのが感じられる。

比較的freeの時間帯の長い演奏だが、一音一音Baileyの音色の美しさを楽しんでほしい。

最後に再び、ふわっとテーマが出現する。まるでjazzだね。参りました。この曲の後もちゃんと切れ目がある。

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05. My Melancholy Baby(lyr - George A. Norton, comp - Ernie Burnett)

1912年発表。William Frawleyが歌ってヒット。1939年Bing Crosbyが歌い、また同年、映画 THE ROARING TWENTIES(彼奴らは顔役だ!)(主演:James Cagny主演)の挿入歌で、再びヒット。

Jazz Standardとしても時折耳にするが、比較的古風な曲調なので、Be-Bop以降のミュージシャンにはあまり好まれない。

参考:
・Wikipedia (English) > My Melancholy Baby(This page was last edited on 5 September 2017, at 00:48)
https://en.wikipedia.org/wiki/My_Melancholy_Baby

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ここからは最後まで切れ目がない。Baileyの体力とイマジネーションには脱帽だ。

最初はまたぶっ叩くようにcodeを弾き、テーマに入る。この曲はすぐにfree improvisationに入るが、codeでrhythmを強調したような展開。いつものBaileyはよく知らないけど、ちょっと珍しい展開じゃないかなあ。かなり調子よさそう。

ひと通り暴れたあとは、突然次の曲へ。この唐突さにしびれますね。

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06. My Buddy(lyr - Gus Kahn, comp - Walter Donaldson)

1922年発表。Henry Burrの歌でヒットしたらしいが、もうこの辺は自分にはさっぱりわかりません。1939年、Harry James OrchがFrank Sinatraのvocalでヒットさせたものの方が有名だろう。

Jazz Standardとしては今は聞かないが、Coleman HawkinsやEarl Hinesなど古いミュージシャンが録音している。

参考:
・Wikipedia (English) > My Buddy (song)(This page was last edited on 29 August 2017, at 15:46)
https://en.wikipedia.org/wiki/My_Buddy_(song)

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この曲では1 chorusを慈しむように丁寧に弾く。そしてfree improvisationへ。またもやいつの間にか次の曲へ。

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07. Gone with the Wind(風と共に去りぬ)(lyr - Herb Magidson, comp - Allie Wrubel)

1937年発表。Horace Heidtが歌って大ヒット。

Margarette Mitchellの大ヒット小説GONE WITH THE WIND(風と共に去りぬ)(1936年)とは直接の関係はなく、歌詞も無関係。おそらく便乗商法じゃないか、と思う。1939年に映画化されたGONE WITH THE WIND(風と共に去りぬ)で使われた曲、例えば一番有名なTara's Themeをはじめとする曲・サウンドトラックとも無関係だ。この辺、今も混乱があると思う。

Jazz Standardとしては、Billie HolidayやDoris Dayで有名なのかな?このへんよく知らない。インストだと、THE INCREDIBLE JAZZ GUITAR OF WES MONTGOMERY [Riverside] rec.1960あたりが有名かな。

参考:
・Wikipedia (English) > Gone with the Wind (song)(This page was last edited on 22 June 2017, at 01:23)
https://en.wikipedia.org/wiki/Gone_with_the_Wind_(song)

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この曲もテーマの途中から入り、終わりきらないままfree improvisationへ。かなり調子が出てきて、ballad集という感じもなくなってくるが、その展開も短いので大丈夫。

油断していると、すぐに次の曲のテーマが出てくる。Slow downすると次の曲、と覚えておくといい。

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08. Rockin' Chair(lyr/comp - Hoagy Carmichael)

1929年発表。Hoagy Carmichaelが自作自演でヒット。Mildred Bailey、Frank Sinatraのバージョンも有名らしいが、自分はよく知らない(曲自体も)。

参考:
・Wikipedia (English) > Rockin' Chair (1929 song)(This page was last edited on 23 May 2017, at 22:28)
https://en.wikipedia.org/wiki/Rockin%27_Chair_(1929_song)

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これも突然テーマが出てきて、freeに順応した頭が混乱する。しかし1 chorus完結しないままfreeへ。かなりの速弾きで、テクの限りを尽くす。あっという間に嵐が過ぎて、次の曲へ。

ツヅク

2017年10月19日木曜日

ロビン・ケリー 『セロニアス・モンク 独創のジャズ物語』 ひろい読み2

Derek Bailey話の途中ですが、先日紹介した

・ロビン・ケリー・著, 小田中裕次・訳 (2017.10) 『セロニアス・モンク 独創のジャズ物語』. 673+30pp. シンコーミュージック・エンタテイメント, 東京.
← 英文原版 : Robin D.G. Kelley (2009) THELONIOUS MONK : THE LIFE AND TIMES OF AN AMERICAN ORIGINAL. xviii+588pp.+pls. Free Press, New York.


装丁 : 石川絢士(the GARDEN)

ようやく読了しました。2週間かかったな。読むだけでも大変なのに、この翻訳はホントにすごい仕事だ。

これから、何度も何度も拾い読みすることになるだろう。この本で、何十年も楽しめると思うと、ほんとうにうれしい。

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その中から、また気になったところをひろい読み。

(1) Theloniousという名前

この本では、Monkの先祖を3代前まで逆上って調べてある。曾祖父母がJohn Jackと通称Mother Cole。祖父母がHinton ColeとSarah Ann Williams。父母がThelonious Monk Sr.とBarbara Batts (Monk)。

この本には残念ながら、固有名詞のアルファベット表記がほとんどない。せめて索引にはアルファベット表記をつけてほしかった。

「Thelonious」という、このUSA市民としては一風変わった名前はラテン語。7世紀フランスのキリスト教聖者St. Tiloのラテン名だ。英語にするとTheodore。

ここまでは知っていたのだが、その名をMonkの父につけたのが祖父Hinton Cole。彼は、どうもカトリック教やラテン語の勉強していたようなのだ。それでも19世紀に黒人で、「Thelonious」というラテン名をつける、というのは只者ではない。さすがMonkの祖父と言えようか。

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(2) Babs Gonzalesの兵役逃れ

Be Bop期の男性シンガーBabs Gonzales(1919-80)。彼の兵役逃れの作戦は爆笑もの。ここではネタばらしはしないが、知りたい人は本書p.130を読んでほしい。

しかしこの話、たぶん盛ってるな(笑)。

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(3) Miles Davisとのケンカ

この本には、MonkとMilesの口ゲンカが何度も出てくる。MilesがMonkから多くを教わり、尊敬していたのは間違いない。ただし「自分のバックでMonkが弾くのは勘弁」と思っていたのも間違いない。Monkのバッキングは、Milesのソロには合わない。

しかし、かの有名な1954年12月24日の、いわゆる「ケンカ・セッション」は誤り。これはもう、「マイルス自伝」などで、みんな知ってるだろう。

実際、このレコーディングの後、MonkはMilesを家に招待し、Milesは朝までくつろいでいた、てんだから。

でも実は、その9ヶ月前、MonkとMilesはケンカをしていた。1954年3月、Monkのアパートで、Monk、Miles、Max Roachが練習をしてた時に、Milesは「あんたの弾き方は間違ってる」とMonkをけなし、二人は一触即発になった。

まあ、殴り合いまでは行かなかったが、どうも「ケンカ・セッション」神話には、このあたりの話も混入しているような気がする。

1955年7月Newport Jazz FestivalでのMiles – Monk共演でも、互いに「あいつの演奏は間違ってる」と言い合ってケンカになったらしい。これも、後には「ケンカ・セッション」神話に吸収されたのかもしれない。

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(4) MilesがColtraneを殴ってクビにした事件

1957年4月、Café Bohemiaに出演していたMiles 5だったが、麻薬中毒のColtraneとPhilly Joe Jonesがあまりにも不甲斐ないステージをするので、Milesは怒って二人をクビにした。

その時にMilesはColtraneをぶん殴ったらしい。このステージを聴きに来ていたMonkが、ちょうどその場に居合わせ、Coltraneに「オレのところに来い」と引き取った、と云われる。

あまりにも出来過ぎた話なので、

2017年1月24日火曜日 Thelonious Monk at the Five Spot大全(1) Monk's Mood (revised)

では、「おそらく神話にすぎないだろう」と書いてしまったが、この本によると、どうも本当らしい。

こういう運命の瞬間って本当にあるんですね。ドラマみたいだ。訂正します。

なお、THELONIOUS HIMSELFで、1曲だけColtraneが参加しているMonk's Moodの録音は、この事件よりも前らしいです。

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この本読んではじめて知った、おもしろい話はまだまだあるので、Bailey話の合間に、またやりましょう。

2017年10月18日水曜日

美の極致 Derek Bailey/BALLADS & STANDARDS (2)

・Derek Bailey/BALLADS [Tzadik] rec.2002, pub.2002


Design : Hueng-Hueng Chin

まずはジャケットから行きましょう。

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ジャケ写は、Kim Novak。映画ファンならすぐわかるそうですが、私は知りませんでした。こちらのサイト↓のコメント欄で知りました。

・音の本箱 > Ballads/Derek Bailey (2015/6/29(月)午前4:49)
https://blogs.yahoo.co.jp/kuwazuimodoki/35054439.html

これは、映画 Richard Quine(dir)(1958)BELL, BOOK AND CANDLE(媚薬)のワン・シーン。主演はJames StewartとKim Novak。

参考:
・koukinobaaba > Audio-Visual Trivia > キム・ノヴァク 媚薬 Bell, Book and Candle (1958)(投稿日: October 12, 2005)
http://www.audio-visual-trivia.com/blog/2005/10/kim_novak_in_bell_book_and_can.html

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Novak演じる魔女Gillianが、Stewart演じるSheppardにシャム猫を使って魔法をかけるシーンです。

そのシーンは、

・YouTube > Bell Book and Candle spell scene(uploaded by859716 on 2011/01/21)
https://www.youtube.com/watch?v=9TesRoMisEw

で見ることができます。そのキャプチャー画像がこちら↓

https://i.ytimg.com/vi/ilQpWjyaU7w/maxresdefault.jpg

BALLADSジャケ写は、これの数フレーム後でしょうか。いずれにしても、映画マニアJohn ZornのLabelらしいジャケです。

ただし、クレジットが皆無なのはいただけない。

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で、ようやく内容。

2002/01~03, London
Derek Bailey (g-solo)

01. Laura
02. What's New
03. When Your Lover Has Gone
04. Stella by Starlight
05. My Melancholy Baby
06. My Buddy
07. Gone with the Wind
08. Rockin' Chair
09. Body and Soul
10. Gone with the Wind
11. Rockin' Chair
12. You Go to My Head
13. Georgia on My Mind
14. Please Don't Talk about Me When I'm Gone

これはfree improvisation界の巨匠Derek Baileyが晩年に残したsoloでのballad集。これまでmelodyもrhythmもharmonyもないfree improvisation一本槍でやって来たBaileyを知るものとしては、驚天動地の事件。

Baileyはこの3年後に亡くなるわけですが、自分の音楽歴、特に子供時代~青年期に自分を形成してくれた音楽たちへ、返礼しておきたい、という気持ちだったのだろうか。

もちろんJohn Zornをはじめ、周囲の薦めがあったようだが、その辺の経緯は最後に見ていこう。

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Ballad集といっても、曲のmelody、code進行が出てくるのはごく一部で、半分はfree improvisation。しかし、その中から突如曲のmelodyが浮かび上がる瞬間は、この上なく美しい。

Baileyが弾くmelodyが美しいのは誰でも気づくが、それはfree improvisation時のBaileyの音も美しい、からに他ならないことに気づかされる。

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Derek Baileyは1960年代なかばまでは、達者なjazz guitaristとして活動していたらしいが、ある日「同じことの繰り返しはつまらない」と気づき、「melodyを弾かない」「手癖で弾かない」「codeを弾かない」「定常rhythmを刻まない」といったfree improvisationの世界に入って行きました。

つまり「引き算」でできた音楽で、常にストイックそのもの。まるで、骨だけでできているような音楽です。必然的にsoloが多くなります。

他のミュージシャンとの共演もありますが、melodyもharmonyもrhythmも共有しないので、Baileyだけが孤立して演奏しているような形になることもしばしば。

Baileyの理念をよく理解したミュージシャンとの共演では、共演者それぞれが勝手気ままな方向を向いて、バラバラなことをやっているようにも聞こえる(YANKEESとか)。

これが、「聴いて楽しいか?」と言われると、「YES」と答えられる人は多くない。

常に未知の世界を求めての演奏は、既存の音楽の否定から始まっているので、調子が悪いと単に何か「あれもやらない、これもやらない」とすべてを避けて通る「障害物競争」のように聞こえてしまうこともある。

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なにはともあれ、このBALLADSを順番に追っていこう。

収録時間は約40分。Stella by Starlightが7分、Body and Soulが6分あるが、他は1~3分と1曲1曲がとても短い。Free improvisationが苦手な人も、少し待てば美しいmelodyが出てくるので、聞きやすいはずだ。

2度切れ目が入るが、ほとんどmedleyで演奏が続く。おそらくテープ編集は皆無だろう。集中力、緊張感、持続力、がすごい。超人です。

ちょっとのテーマの後、free improvisationに入るが、その中に時々混入してくる曲の断片がまた美しい。

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01. Laura (lyr - Johnny Mercer, comp - David Raksin)

1944年発表。映画 Otto Preminger(dir) (1944) LAURA(ローラ殺人事件)(主演:Gene Tierney, Dana Andrews)の挿入楽曲。この映画は見たことない。

Frank SinatraやJulie Londonが歌ってヒットしたらしいが、自分は全然知らない。

Jazzファンにはなんといっても、Charlie Parkerのレパートリーとして有名。With Stringsとして演奏されることが多かった。

しかし、Baileyの弾くmelodyにはParkerフレーズは出てこないので、Parkerの演奏を念頭に置いているような感じではない。

あと、Parker followerであるEric Dolphyの演奏も素晴らしい。

参考 :
・Wikipedia (English) > Laura (1944 film)(This page was last edited on 11 October 2017, at 00:16)
https://en.wikipedia.org/wiki/Laura_(1944_film)
・Wikipedia (English) > Laura (1945 song)(This page was last edited on 12 August 2017, at 09:46)
https://en.wikipedia.org/wiki/Laura_(1945_song)

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数秒間の小手調べがあった後、いきなり始まるLauraのテーマ。衝撃です。

1st chorusは至極まっとうに弾く。Codeの美しいこと、美しいこと。2nd chorusはfakeが入り、その後はfree improvisationに入るがあまり暴れない。Ballad集だもんな。

この曲で、このアルバム全体の雰囲気が決まった。全部の曲にこのLauraの余韻が残り、medleyで曲が続くこともあり、統一感抜群の作品となった。

時おり、Body and Soulのmelodyがかすかに混入するのも微笑ましい。medley形式で次の曲に入る。

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02. What's New (lyr - Johnny Burke, comp - Bob Haggart)

1939年発表。Bob Crosby OrchがTeddy Graceのvocalでヒットさせた。続いてBobの兄Bing Crosbyが歌って、こちらはもう大ヒット。

以後、Jazz Standardとして歌い続けられている名曲。Billie Holidayあたりが一番有名なのかな?歌ものに弱いので、よく知らない。

Linda Ronstadt/WHAT'S NEW [Elektra/Asylum] pub.1983 での元気いっぱいの表題曲は、Jazzとは言えないが大好きだなあ。

参考 :
・Wikipedia (English) > What's New(This page was last edited on 14 August 2017, at 09:37)
https://en.wikipedia.org/wiki/What%27s_New%3F

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01から連続している上に、テーマの途中から入るため、ちょっとわかりにくい。あとで、お馴染みのフレーズが出てくる瞬間を楽しみに。

この曲もcodeワークが実に美しい。ただしfake色が強いので、ちょっとわかりにくい展開だ。とはいえ、いつものfree improvisationに比べるととても親しみやすい。また少しだけBody and Soulが混じる。

この曲はきっちり終わり、一応切れ目が入るが、すぐさま次の曲へ。

ツヅク

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(追記)@2018/11/26

2017年10月30日月曜日 美の極致 Derek Bailey/BALLADS & STANDARDS (5)

では、BALLADSの姉妹編STANDARDSのジャケ写について語っていますが、当時はモデルが誰かはわかりませんでした。

2018年11月26日月曜日 Derek Bailey/STANDARDSのジャケ写モデルがわかった

で、ようやくわかったそのモデルの正体について語っています。

2017年10月10日火曜日

ロビン・ケリー 『セロニアス・モンク 独創のジャズ物語』 ひろい読み

Jazzmanに関する日本語の本で、一番多いのはMiles Davis本だろう。ちゃんと調べたわけじゃないが、間違いないと思う。これに続くのが、たぶんJohn Coltrane本。

続いて、おそらくCharlie Parker本とThelonious Monk本が並ぶのではないか?

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私が持っているMonk本は次の通り。

・村上春樹ほか・著, 村上春樹・編訳 (2014.10) 『セロニアス・モンクがいた風景』. 新潮社, 東京.

・ジャズ批評, no.94(1998.1), セロニアス・モンク大全集. 
→ 再編 : ジャズ批評編集部・編 (2002.12) 『定本セロニアス・モンク』(ジャズ批評ブックス). 松坂, 東京.

・ローランド・ウィルド・著, 水野雅司・訳 (1997.11) 『セロニアス・モンク 沈黙のピアニズム』. 音楽之友社, 東京.

・講談社・編 (1991.1) 『セロニアス・モンク ラウンド・アバウト・ミッドナイト』. 講談社, 東京.

どれもモンクへの愛情にあふれた名作ばかり。

他に

・T・フィッタリング・著, 後藤誠・訳 (2002.6) 『セロニアス・モンク 生涯と作品』. 勁草書房, 東京.

があるが、これはあんまりおもしろくなかったなあ。

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2017年3月30日木曜日 Thelonious Monk at the Five Spot大全(11終) Five Spot 1958 with Sonny Rollins
2017年3月19日日曜日 Thelonious Monk at the Five Spot大全(8) Five Spot 1958 with Johnny Griffin -その2

を書く時に使った

・Robin D.G. Kelley (2009) THELONIOUS MONK : THE LIFE AND TIMES OF AN AMERICAN ORIGINAL. xviii+588pp.+pls. Free Press, New York.

が邦訳されました。

・ロビン・ケリー・著, 小田中裕次・訳 (2017.10) 『セロニアス・モンク 独創のジャズ物語』. 673+30pp. シンコーミュージック・エンタテイメント, 東京.


装丁 : 石川絢士(the GARDEN)

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結構高い本なのだが、迷わずすぐに買いましたよ。

まだ本格的に読み始めて間もないので、これまで気になっていたところだけ先に拾い読み。

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(1) Monk with Charlie Rouse @Five Spot Café録音日

2017年3月26日日曜日 Thelonious Monk at the Five Spot大全(10) Five Spot 1958 with Charlie Rouse

で紹介した、Rouseが加入した1958年Five Spot録音

Thelonious Monk/LIVE IN NEW YORK VOL.1 [Thelonious→Explore] rec. 1958, pub. 2002, re-issue 2007

の録音日はいつなんだろう?という疑問。

こちらは、

モンクと以前に共演していたものの、当初ラウズは少々圧倒された。彼は十月二日の夜に、ほとんどリハーサルなしで初出演した。
同書, p.377

バンドがどういうサウンドになっているのか実際に知りたかったので、ラウズの初日か二日目に、モンクはニカに頼んで彼女のテープレコーダーをクラブに持って来てもらった。
同書, p.378

原注 第19章
(9) Thelonious Recordsはこの録音をCD "Live in New York Vol.1&2" としてリリースしている。
同書, 巻末p.23

というわけで、録音日は1958/10/02 or 03であることがわかった。

Rouseの演奏は、Monk 4に加わって初日~二日目という感じは全くしない。驚き。RouseはMonkに合わせることに関しては、まさに天才だ。

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(2)1961~62年の空白期間

1961年4~5月のヨーロッパ・ツアーから、Columbiaと契約して1962年10~11月にMONK'S DREAMを録音するまで、1年半もMonkの公式録音はない。この全盛期に1年半も空白期間があって、今まで誰も疑問に思わなかったんだろうか?

それを埋めるのは2つの非公式録音

1962/07/08 : Monk with Duke Ellington Orch @Newport Jazz Festival [Gambit]
1962/08 or 09 : Monk 4 @Village Gate, NYC [Xanadu]

だが、それでもまだ1年以上空白のままだ。

おそらくRiversideからColumbiaに移籍する手続きに手間取っていたんだとは思うが、それにしてもライブの情報すらないのはおかしい。もしかしてMonkは病気だったのでは?気になる・・・。

そういうわけで、ケリー本からこの間のMonkの動きを拾ってみると

1961/06/01~07/01 : Monk 4 @Jazz Gallery, NYC
1961/10/01~2 weeks : Monk 4 @Bird House, Chicago
1961/11/07~1 month : Monk 4+Clark Terry @Village Vanguard, NYC
1961/11/17 : Monk 4 @Hotel Pierre, NYC
1961/12/31 : Monk 4 @Carnegie Hall, NYC

1962/02/20-??/?? : Monk 4 @Village Gate, NYC
1962/04/前半~2 weeks : Monk 4 @Jazz Workshop, SF
1962/04/後半~04/29 (2 weeks) : Monk 4 @Club Renaissance, LA
1962/06/02 : Monk 4 @First International Jazz Festival (Jazz at the Coliseum), Washington DC
1962/07/08 : Monk with Duke Ellington Orch @Newport Jazz Festival [Gambit]
1962/07/10-??/?? : Monk 4 @Village Gate, NYC [Xanadu]

体調が悪い時期もあったようだが、意外にめいっぱい活動していた。一安心(50年以上前のことに?(笑))。

なお、Monkの活動日誌については、

・Chris Sheldon (2001) BRILLIANT CORNERS : A BIO-DISCOGRAPHY OF THELONIOUS MONK (Discogrphies, Number 89). Greenwood Press, Westport, CT.
https://books.google.co.jp/books?id=soVtoCn8pRQC&printsec=frontcover&dq=Thelonious+Monk&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwjS1cyfmObWAhXFzbwKHVJHBccQ6AEIQzAE#v=onepage&q=Thelonious%20Monk&f=false

というものすごい本もあり、Monkの足取りがもっとくわしく記録されています。これもほしいなあ。

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(3) Monk with Ellington Orch @Newport Jazz Festival 1962

2017年1月2日月曜日 Thelonious Monk と Duke Ellington

で紹介した、1962年Newport Jazz FestivalでのMonk – Ellington共演。

これ、ものすごく面白い録音なんだが、それにしてもBilly Strayhornの編曲が、なんでまたあんな凶悪なんだ?(特に2曲目Frere Monk=Bolivar Blues)と思わないこともなかった。

その謎が、この本を読んだら解けた。

次の曲ストレイホーンの〈フレア・モンク〉はそれほどうまく行かなかった。エリントン自身もその曲はほんのわずかしか知らない様子で、「えーと、モンク・フレア?フレア?フレア・モンクだったかな?」と紹介している。誰もモンクに譜面を渡していなかったのか、モンクが見るのをやめにしたのかはわからないが、モンクは〈バルー・ボリヴァー・バルーズアー〉を弾き始めたのだ。一コーラス弾き終わると、バンドは〈フレア・モンク〉にいきなり入って、一方モンクはBフラットのブルースをインプロヴァイズしている。
同書, p.480

なんと、MonkとEllington Orchは互いに別の曲を演奏していたのだ!道理で、Ellington Orchが後で録音したFrere MonkにBolivar Bluesのmelodyが全然出てこないはず。

Strayhornの編曲が凶悪なアンサンブルに聞こえたのも当然だ。いやはや、ますますこの録音のおもしろさが増した。

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他にも面白いエピソード、初めて聞くエピソードが満載。Monkファンなら絶対買いの一冊です。

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(追記)@2017/10/11

かつて一九六六年にヘルシンキで、一群のレポーターがモンクのクラシック音楽に関する考え方と、ジャズとクラシック音楽が一体となれるのか否か、モンクに回答を迫ったことがあった。モンクのドラマーだったベン・ライリーは会話の成り行きを見守っていた。「誰もが、モンクがそれに答え、クラシック音楽とジャズの関係について、何らかの形で明快に語るのを聞きたがっていた・・・すると、モンクはこう言ったんだ。『二つは一つだ(Two is one.)』(後略)
同書, p.27

RouseのMonk 4脱退後の力作

Charlie Rouse/TWO IS ONE [Strata East] pub.1974

の元ネタは、Monkの名言だったのか!おんもしれー!

さあ、ますますこの本読みたくなったでしょ!

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(追記)@2017/10/12

河出書房新社の文藝別冊でもモンク特集本を出すようだ。

・河出書房新社 > もうすぐ出る本 > 文藝別冊 セロニアス・モンク モダン・ジャズの高僧 河出書房新社編集部 編(as of 2017/10/12)
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309979328/

文藝別冊
KAWADE夢ムック
セロニアス・モンク
モダン・ジャズの高僧
河出書房新社編集部 編
ムック A5 ● 208ページ
ISBN:978-4-309-97932-8 ● Cコード:9473
発売日:2017.11.15(予定)
予価1,404円(本体1,300円)
サイズ:208ページ

バップの開拓者であり、バップを超える孤高のジャズ・ピアニスト、作曲家モンク。生誕100年、その圧倒的な音楽は、今さらに輝き今日の音楽シーンに影響を及ぼす。

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今どき「モダン・ジャズの高僧」なんていう、的はずれなキャッチフレーズ使ってるあたり、なんかガックリしてしまうが、中身がダメでもたぶん買うんだろうなあ。中身がいいにこしたことはないが・・・。

2017年10月3日火曜日

美の極致 Derek Bailey/BALLADS & STANDARDS (1)

Derek Bailey(1930-2005)をはじめて聴いたのは1981年秋。いきなりライブでだ。

MMD計画=Derek Bailey (g), Milford Graves (perc), 田中泯(dance)

という無茶な組み合わせ。

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ここでMilford Gravesと邂逅しぶったまげてしまい、その驚きは今もなお続いているのだが、このまま行くとMilfordの話になってしまうので、それはまたいつか。

それで、Milfordと田中泯の暗黒舞踏はぴったり息があっている、と感じ、非常にエキサイティングだった。

ところが、その横だったり、客席の後ろに回ったりして、「てれ~ん、てれ~ん、グワシャグ」とギターを掻きむしる白人のオッサンの方は全くわからなかった。肉体派の二人に対しての観念的free improvisationと感じ、「生理的に合わない」と拒否反応を示したわけ。

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その後もfree jazzを聴き続けているわけだが、Europeのfree improvisationの方はどうも性に合わなくて、ほとんど聴いていない。

Derek Baileyが主戦場としていたUKのIncus LabelもEvan Parkerをいくつか聴いている(ライブは一度だけ聴いた)程度で、Derek Baileyは避けてきた、といってもいいくらい。

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Baileyを少しずつ聴き始めたのは、John ZornやBill Laswellと絡み始めてから。

Derek Bailey + George Lewis + John Zorn/YANKEES [Celluloid/OAO(ジムコ)] pub.1983


Artworks : Thi-Linh-Le

IMPROVISED MUSIC NEW YORK 1981 [Mu Works(徳間ジャパン)] rec.1981, pub.1992


Cover : Thi-Linh Le

あたりを聴いてはみたが、Baileyについては、相変わらず「さっぱり??」(笑)の状態。まあ、特に残念とも思わなかったが。

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1990年代半ばになると、BaileyはZornやLaswellの企画にホイホイと乗っかり、それまでの活動からは考えられないような異種格闘技戦に突入していく。

Arcana/THE LAST WAVE [DIW] rec.1995, pub.1996


Design : Arai Yasunori (Picture Disk)

は、Bill Laswell (b)が間に入り、Derek Bailey (g)とTony Williams (ds)をぶつける、というとんでもない企画だ。腰抜かした!

これTony Williamsの代表作でもある。いつか、きちんと取り上げよう。

今回はBaileyの話なので、先に進むが、とにかくものすごいアルバムだ。Free improvisation界の至宝である。

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Derek Bailey/GUITAR, DRUMS 'N' BASS [DIW/Avant] rec.1995, pub.1996


Cover Design : Arai Yasunori (Picture Disk)

になると、DJ Ninjの打ち込みDrums 'n' Bassと共演だ。大笑いしてひっくり返ったよ。おもしろすぎる。

この辺で、すっかりDerek Baileyが好きになって来た。あいかわらずimprovisationの内容はよくわからないままだが・・・。

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果ては、

Derek Bailey+Pat Metheny+Gregg Bendian+Paul Wartico/THE SIGN OF 4 [Knitting Factory Works] rec.1996, pub.1997


Design : Greenberg Kingsley/NYC

でMethenyとノイズ合戦だ。それも3枚組!いやはや驚いた。

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Derek Bailey+Jamaaladeen Tacuma+Calvin Weston/MIRAKLE [Tzadik] rec.1999, pub.2000


Design : Chippy(Heung-Heung Chin)

今度はOrnette Colemanの弟子たちと共演。「Rhythmには絶対乗らないぞ」という、Baileyの我慢比べが存分に楽しめる。ちょこちょこ、うっかりrhythmに乗っかってしまうBaileyがカワイイ。

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そうした流れの中で、次に出てきたのが、なんとStandard - Ballad集!!!驚天動地の作品だ。

Derek Bailey/BALLADS [Tzadik] rec.2002, pub.2002


Design : Heung-Heung Chin

あのBaileyがわずかとはいえ、chordやmelodyを弾いているのだから、これを驚かずして、何に驚けというのか!

ツヅク